戦争開始
『ニュース速報』
市民たちはスマートフォンから鳴り響いた通知音で目を覚ました。政府が緊急速報を通達してくるとき、ろくなことはない。そんなことくらい分かっていながらも、まだ眠り足りない市民たちは各自携帯電話やテレビ、ラジオより流れる情報を聴く。
『連邦国防軍、ゲルマニア諸国と戦闘状態。大統領府発表』
十数年続いていた戦争なき時代は、このときをもって終わりを告げた。
*
ルーシ・レイノルズは戦力集めに奔走していた。さすがに単独でゲルマニア諸国へ突撃しても、スオミに遭遇できるかも分からないからである。
しかし無法者ルーシとしての私設軍隊はすでに壊滅状態。記憶回路が不安定になる前、スオミひとりによって10,000人もの精鋭がやられてしまった。ロスト・エンジェルスが所有する軍隊もゲルマニアの不意打ちによって動員もろくにできていない。
と、なれば、とれる手段は限られてくる。
「やはり少人数で突破するしかないな」
銀髪の幼女はいつも世話になっている病院へ訪れた。入り口でタバコを消し、すでに連絡をとってある友人たちの元へ向かう。
「メリットは生き残れたことが奇跡。アークはそれに比べりゃマシだが、到底喧嘩なんてできないだろう。ははッ……。ずいぶん苦しいなぁ……」
往年の余裕がないまま、ルーシは疲弊を隠しきれない青白い表情でアークとメリットの病室へ入った。
「……、意味なら分かってる」
されど、憔悴しているようなルーシを見ても、メリットの目は闘志にあふれているままだった。彼女とて馬鹿ではない以上、ルーシに余裕がないのは分かっているはずなのに。
「……クソガキ?」
「あ、ああ。それなら良いんだ」
「なにがあったの?」
メリットはただルーシを心配するように彼女を覗き込む。
「なにもないさ。あったとして、いま話しても雰囲気が微妙になるだけだ」
「下手な隠し事。本当はなにがあったのか聞いてほしいくせに」
「病み上がりにお悩み相談するほど落ちぶれちゃいないさ」
「そう思うなら好きにすれば良い。アンタはそういうタイプの人間だしね」
これ以上追及しても無駄だと悟ったメリット。彼女はルーシの真逆に寝転がるアークを一瞥する。
「こんなカマ野郎でもセブン・スター。だから使えると踏んだ。そうでしょ?」
「どうだかな」
「……、この病院心療内科も入ってるから診てもらったら? 目がぼーっとしてるし、顔色も悪い。アンタが病気なんかかかるわけないし、精神関連でなにかあったような──」
メリットの言葉を遮り、ルーシは溜め息混じりにぼやく。
「たとえ精神病だと診断されたところで、殺しまくった事実といまだに前世の悪霊に睨まれている現実は揺るがないさ」
なにかがルーシを蝕んでいる。いまだ彼女、いや、彼だったときから知らない感情に。
寒すぎて草も生えない
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