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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第一幕 銀髪碧眼の幼女(中身最強の無法者♂)、LTASに立つ
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私の名前は──

「…………」


 彼女は絶句した。彼女は顔がよく、スタイルも良い。ただちょっとだけ劣っているところがあるだけでこの扱われ方。ただ髪の毛がピンク色で、ただポンコツで、ただ失言が多くて、ただアル中で、ただ破滅的にだらしないだけなのに。


「で、でもよ、これから覚えれば良いんだろ? おれはぶっちゃけ親の名前も覚えてねェけど、そんなに深刻そうな顔すんだったら、ちゃんと覚える努力くらいするさ」


 やはりピンク髪は色々とダメらしい。正直、クールという人間は人の名前をいちいち覚えようとしない。ルーシのことはたいてい姉弟と呼ぶし、腹心であるポールモールですらポーちゃんとあだ名で呼び、いまのところ妹であるキャメル以外まともに名前を覚えていそうなヤツはいなさそうだ。


「……信じて良いんですか? これで名前覚えてくれなかったら、私もう引きこもりますよ? 名前って一番大事な認識コードですよね? いままでアル中とか梅毒とか散々いわれてきましたけれど、それも水に流します。だから本当に名前覚えてくださいよ?」


「うるせェな。早くいえよ、ポンコツメンヘラアル中失言マシーン梅毒自称天使」


 ここまで罵倒できる相手も珍しいとルーシは感じる。しかもふたりは出会ってまだ1週間程度だ。前世でもこんなヤツはいなかったのに。


「私の名前は──」


 *


 ルーシ、クール、よくわからないヤツ、ポールモールは、車でMIH学園へと向かっていた。運転席にはポールモール。クールは運転こそできるが、免許証を持っていないらしい。ルーシは現在の年齢的に免許所得は困難。そのため、ポールモールが運転する。黒塗りのリムジンを。


「酒はダメだからな。煙草は良いが」


 彼女は目をつむり、必死で酒への手を抑える。たいしてルーシはすでに5本目の煙草へ火をつけていた。到底10歳児ではないが、クールも咎めようとはしない。


「で? 流れを確認しておこうか。まず私とオマエは親子っていう設定だ。ポールが偽装してある以上、なにか突かれる心配はないはず。いまは春休み。キャメルは登校していない。どちらにしても学校では会うと思うが、今回やる仕事的にアイツはいないほうが好ましい。そして試験はばっちり。模試を受けたが、3回連続A判定だ。あとは……」

「セブン・スターズへ推挙できるだけの実力があるのか、を認めさせることだな。まあ、姉弟のスキル的に問題はないはずだ。なにせこのおれを倒したんだからな。学力大丈夫、スキル大丈夫、つまりは……」

「私とオマエがどれだけ強欲になれるかで勝敗は決する。要求金額1億メニー。イースト・ロスト・エンジェルスを征服には充分だろ? ポールの武器庫とサクラ・ファミリーの兵隊、そしてオマエの組織。それらが私の掌で踊る。最高じゃないか」


 この作戦、要するに裏金制度を使い、学校側から金を提示させようというものだ。綿密に計画は立てられている。あとは、勝つだけだ。


「アニキ、ルーシ、もう1分としないうちにつく。降りる準備を」


 スピーカーからポールモールの声が聞こえた。ルーシとクールはそれぞれ顔をポンポンたたき、勝負へ挑んでいく。


「……私の名前覚えてくれましたか?」


 そんななか、彼女は恨みつらみがたまりきった表情でいう。


「ああ、ばっちりだぜ。そう、ばっちりだ」

「そうだな姉弟。完璧だ。まったくもって、ばっちりだよ」

「……じゃあ私の名前いってくださいよ」

「よし、行こうか」

「そうだな姉弟」


 ルーシとクールは車から降りる。

 クールはMIH学園の本校舎を見つめ、感傷に浸ったかのような顔になる。


「そうか……おれは17年前、ここに入ったのか。楽しかったな。毎日毎日退屈しなかった。ジョン・プレイヤーに会いたいな」

「ジョン・プレイヤー?」


「ああ」クールは柔和な苦笑いを浮かべ、「壮麗祭でおれに唯一勝ったヤツだ。アイツがいなかったら、おれは3連覇してただろうな。確かアイツはセブン・スターズになったはずだし、やっぱおれのライバルにふさわしいヤツだったんだ」


「そうかい……。オマエに勝てるほどなんだから、相当強ェんだろうな」

「また会って遊びてェなぁ。まあ、無法者と国家最高戦力じゃ交わることもないだろうけど」

「そりゃあ……自分で掴んだ未来なんだから仕方ないだろう」


 どこか感傷気味な笑みを浮かべるクールの背中を、ルーシはぽんと叩いた。


「じゃ、行くか」

「うん、お父さん」

「……ホント、1瞬でキャラ変わるよな。声質まで全然ちげーし、なんか表情まで柔らかくなるしよ」

「仕方ないでしょ。一応親子ってことになっているんだから」

「まーな。あ、アイツいなくなっちゃった」

「ひとりで試験受けに行ったんじゃない? どこに行けば1発試験受けられるかは教えておいたし」


 そんなわけで彼女はいなくなった。ルーシとクールは車にポールモールをまたせ、仕事へ向かう。


 *


「考えてみてください、あのクールの娘ですよ? 実力は必ず高いはずですが、学校の風紀も同時に乱すのはほとんど確定的で……」

「クールは15歳なのに教員用の喫煙所で煙草吸ってたし、あるときなんかドラッグパーティーを開いてたし、気に入らない生徒は暴力を振るったあと学校の中心に裸で放置してたし……正直、その娘が入るとなると、逆に評判が下がるのでは?」

「いや……あのクールの娘だぞ? 10歳と聞いているが、現状でもランクA相当の実力はもっているはずだ。10歳がランクAはまるで前例がないから、飛び級で高等部へ入れるのは確定としても……3年間、いや、1年でその娘はランクS……そしてセブン・スターズ予備軍になってくれるはずだ。千載一遇の好機なのは間違いない」


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