オマエにしかできないこと
ポールモールは冷徹な無法者である。幼女の皮を被ったヒトモドキを思い切り殴ったところで痛む心も存在しない。
「落ち着け、ポール」
「あ?」
「娘が殴られるのを見るのは嫌なものがある。それに、ルテニアはなにも悪いことしていないだろ?」
「そりゃそうだが、なにかを得るってことは痛みを伴うんだぜ?」
「知っているさ。ただ……」
しかし、普段ならば同調してルテニアを容赦なく殴打していただろうルーシは、もう一度彼女を殴ろうとしたポールモールの腕を止める。
「私の直感が囁いているんだ。コイツを生かしておけば、後々役立ちそうってな」
「おいおい、コイツは所詮オマエの劣化版だぜ? 実力で言えば10分の1にも満たないだろうさ」
「私の言っていることに従えねェと?」
身長155センチ程度の幼女は、180センチ超えの巨漢を見上げて睨む。ポールモールは舌打ちし、手を広げた。
「だったらどうやってスオミ・アウローラに勝つんだよ? いまだって杖がなきゃ満足に立てもしねェだろうが」ポールモールはルーシの杖を見て、「この人間やってるつもりの模造品の魂がありゃ、超能力で歩行障害を治すことだって可能だろ?」
ポールモールの言ったことは正しい。銀髪の幼女は軽い薄い溜め息をつく。
ルーシの超能力は魔術なんかよりよほど摩訶不思議だ。魂を分けて死ぬリスクを極力減らすなんて芸当は、ほかの誰でもないルーシにしかできないのだから。
「それでも……自分のためだけに人殺しはしたくない」
されど、ルーシはうつむいてそうつぶやいた。この場にいた3人は口をポカンと開ける。
「社長ォ、いったいなにがあったんだ? おれのいねェ間に」
「……、オリジナル」
開いた口が塞がらないポールモールだが、次の瞬間には着信音が響いた。彼は緊急時のみ使用される携帯電話への着信に出て、血相を変える。
「…………、本当ですか?」
息を呑み込み、ポールモールは手短な通話を切った。
「ルーシ……。今しがたクールのアニキから電話があった。ロスト・エンジェルスの離島に大規模爆撃が行われたと」
「爆撃? 18世紀末期に爆撃機なんてこの国にしか存在しないだろ」
「いや……D-スペックという外道が空軍を襲撃して最新鋭の戦略爆撃機を奪ったらしい。宇宙方面軍からの報告によると、死傷者は500人を超えるほどだと」
「チッ……」
ルーシは舌打ちし、即座にポールモールとリヒト、そしてルテニアへ命令を飛ばす。
「報復措置を取るぞ。ポール、オマエはクールと連携して空軍でも宇宙軍でも動かせ。無人爆撃機でゲルマニア諸国を火の海にしてやれ。リヒト、オマエはスターリング工業の私設軍隊『ピースキーパー』と協力しその離島に向かって生き残った者たちを回収しろ。で、ルテニア。オマエは……」
ルーシは指の関節をパキパキと鳴らし、不安そうにこちらを覗き込むルテニアへ告げる。
「私といっしょに来い。オマエにはオマエにしかできないことが必ずある」
喉風邪なった疑惑中……
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