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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第九幕 我らの祖国、ロスト・エンジェルスを守れ

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選択の自由

 スターリング工業本社前に一台のタクシーが停まった。後部座席から現れたのは銀髪碧眼の幼女ルーシと赤髪の青年リヒトだ。


「社長ォ、ポールさんはどうやってバックアップを用意してあったんだろ?」

「知らないよ。ただまあ、やはりアイツは有能だってことさ」


 現在、ルーシはこの世界に訪れてからの記憶はある程度保有している。一方、前世での記憶はおぼろげだ。とはいえ、あまりにも苛烈過ぎて忘れられない過去もある。


「……チッ」


 ルーシは苦い過去を想起しつつも、スターリング工業オフィスに向かう。エレベーターで最上階まで上り、ついにハイヒールの甲高い音を鳴らす幼女は社長室へたどり着く。


「久しぶりだな、ルーシ」

「ああ。私の執務室の使い勝手はどうだ?」

「ありとあらゆるところに、ブービートラップ仕掛けとくのはどうかと思うぜ?」


 190センチに迫る高身長のポールモールは、指を鳴らした。


「……。ルテニア?」


 ルーシの分体、レイノルズちゃんのひとりであるルテニアが現れる。ルーシは怪訝な表情になった。


「久しいな、オリジナル。ようやく情け容赦ない無慈悲な世界軸をも変えてしまう大戦争を──」

「相変わらず冗長だなぁ……。私の魂ってこんな一面も持っているのか?」ルーシはますます訝り、「でもよ、ポール。コイツがなにかしらのデータを握っているってことなんだろ?」

「ちょっと違うな」

「なにが違うんだ?」

「より正確に言えば、コイツと合体することでオマエの記憶が復活するってわけだ」

「合体? 悪いが、鏡像投影性愛(エスペクトロフィリア)の趣味は無いぞ?」

「へ? エスペなんちゃらってなに? 社長ォ」

「鏡に映った自分に興奮する性癖だよ。つか、そういう意味での合体じゃねェよ。ルーシ」

「じゃあどういう意味だよ?」


 ポールモールとルテニアは一瞬目線をあわせ、頷きあった。


「ルーシ、オマエの能力は“この世界ではあり得ない現象を操る”ものだろ?」

「そうだが?」

「だったらコイツから魂を抜き取れば良い。それで記憶はだいぶ回復するはずだ」

「たったひとつの魂で復活するものなのか?」

「するさ。能力で吸収したほんのすこしの記憶を増幅させれば良い。どんな魔術を使っても不可能なことも、オマエだったら絶対にできる。だろ?」

「それはそうかもしれないが……」


 ルーシはルテニアを一瞥し、彼女の顔がすこし強張っていることを知る。


「ルテニアはそれで良いのか?」


 おそらく、ポールモールはルテニアを説得した。それもかなり暴力的な方法で。そうでなければ、意志を持つヒューマノイドが望んで自らの事実上の死を受け入れるはずがないからだ。


「……。嫌だ、と言ったらオリジナルは納得するのかい?」

「おい」


 ポールモールはルテニアの頬を引っ叩いた。ルテニアは口からドバドバと血を流し、悲痛な表情で目を瞑った。

 巨漢が幼女を殴るという光景に、悪党であることを自覚しているリヒトすら目をそむける。


「オマエに選択の自由があると思ってるのか? 別の分体を使っても良いんだぞ?」


久々にルテニア登場です。


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