獅子身中の虫(*)
口調を崩さず、無表情もいつもどおり。傍から見ればメリットは冷静に闘っているように見えるかもしれない。
だが、内心は焦りや恐怖、怒りで混沌としていた。ホープがこのままでは死んでしまう。パーラが他の有志と合流できなければ連れ去られてしまう。そもそもこの場を切り抜けられるのか? と。
そして、このふたりを含めた非戦闘員を傷つけた“人殺しの外道”のクローンへの憤怒が決定的となり、メリットは取り返しのつかないミスをしてしまった。
「チクショウ……。オリジナルほど再生能力を持っていねェからな……。だが、内部に潜む敵は取り除いてやったぜ?」
「ほら、かかってこいよ。こちらは自殺覚悟で大刀ぶっ刺したんだぞ? まさか手札切れってわけじゃないよな?」
再生能力がルーシに比べて弱いとはいえ、最終的にはすべてふさがってしまうだろう。正直、ここを逃せばもう二度と好機は訪れない。ふたりは立っているのもやっとだからだ。
しかし、メリットにはもはやふたりに決定打を与えられるほど魔力が残っていない。
ふたりの体内にコイルを入れ、それを操作し、自身へは透明化する術式を仕掛けた。こんな三重苦を耐えられるほど魔力を持っていれば、メリットはきっとセブン・スターにだって選出されている。
やがて透明化が解除された。すなわち、虐殺の始まりである。
「結構近けェところにいたみてーじゃねェか……!!」
乾いた破裂音が響く。メリットの腹部に銃弾が直撃した。意趣を返されたかのように、メリットは血反吐を吐き散らす。
「ホローポイント弾だ。貫通しねェ銃弾のお味はいかが?」
その幼女の皮を被ったなにかたちは、メリットの元へ一歩ずつ近づいていく。足音が途絶えたとき、もう意識すら曖昧なメリットの人生が終わる。かろうじて機能する耳だけが、余計に恐怖を駆り立てていく。
「遺言は?」
メリットにできることはすでにない。魔力を使い切り身体が動かないのに、内蔵が鉛玉でぐちゃぐちゃと壊されていく。
しかし睨むことくらいはできる。どうせだったら睨み殺してやる、くらいの意気込みで死んでやろう。
殺傷性とは裏腹にチープな音を3回聴いた時点で、メリットの意識は途切れた。
「あーあー。もう弾がねェよ」
「私もだ。コイツ、ムカつく面しているもんなぁ」
「さてと、オリジナルの女を確保して帰還するか──」
……レイノルズちゃんたちはあくまでもヒューマノイド。身体の中にあるものは内蔵に似せた模造品であり、彼女たちは人間ならば絶命しているはずの激痛に鈍感だった。
だが、模倣品とはいえ、人間のそれと限りなく近い機能を持っている。
レイノルズちゃんたちの内部で、鉛玉が破裂した。
「げ、ほぉッ……!! ホローポイント……!?」
「クソッ……!! この女……始めからこれを狙っていたのかよ──!?」
この厭味ったらしい根暗女は、意識さえあればこう言っていたはずだ。
『アンタらのオリジナルは、獅子身中の虫が一匹だけだって盲信しない』と。
次話より主人公視線に戻ります。
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