〝ダークヒーロー〟
ルーシは思わずメリットから目をそらす。彼女の言う通りだと思ったからだ。
この幼女はヒトを殺したことがある。それも何度も何度も殺した経験がある。
そしてその都度その幼女は笑っていた。それを思い出してしまったルーシの心境とは、つまり。
「なんだい……。結局私は道化師だったのかい」
銀髪碧眼の幼女は、そうつぶやいてその場から立ち去ろうとした。
が、そんな真似はメリットが許さない。
「アンタが逃げたら、あの子たちを誰が守るの?」
「アイツらだって強いんだろ? だったら自分の身くらい自分で守れ」
「これ見ても?」
『カテゴリーⅤ以上のMIH学園所属学生の首を獲った者へは、評定金額の10パーセントをお支払い。アウローラ・カンパニー』
この世界に来てからの記憶をある程度思い出しつつあったルーシだが、前世の記憶は完全に吹き飛んでしまっている。
しかし、唯一覚えていたことがあった。かつてルーシを修羅の道に誘った女が、この世界に現れていると。
「あの子たちは“壮麗祭”みたいなお行儀の良い魔術発表会くらいしか戦闘経験がない。MIH学園から出てしまえば最後、学生で高い評定金額を出してるあの子たちは狙われる」
「……ああ、分かったよ。一緒にいて悪い気のしない連中だ。守ろう」
ルーシは踵を返してパーラたちの元に向かおうとする。
そんな最中、メリットがルーシへ告げた。
「クソガキ、アンタはダークヒーローなんだから」
ルーシは鼻で笑った。
*
MIH学園の周りには、途方もない野蛮人が集まっていた。
「このルーシってのを殺せば1億メニーだろ!? この国の長者番付乗れちゃうぜ!!」
「馬鹿。こういうのは手堅く行くんだよ。ホープってガキ見てみろ。こんな細せェのに6,000万メニー。600万メニーでも十二分に大金だ」
「メントってガキも悪くねェ。ま、数で押せば勝てるさ。所詮はボンボンの学生どもだ」
といった会話を、ルーシとメリットは旧魔術を用いて盗聴していた。
「ゲスね」
「どうせ強姦もワンセットだろうに。クソ野郎どもが」
学園自体も異変に気がついているのだが、いかんせん学校全体を取り囲まれてしまうと対処が難しい。警察機関か連邦国防軍に通報したほうが良さそうな気もする。
しかし、こうも思う。これだけの騒ぎなのに警察がひとりも駆けつけておらず、ニュース番組はいつもどおり報道している。すなわち、MIH学園は見捨てられたのでは? と。
学校内に閉じこもる形になった生徒たちも教師たちも、怯えるしかなかった。外の光景を良く見てみると、明らかにロスト・エンジェルスの市民ではない者も紛れ込んでいる。それらが一体どんな魔術を使うのか。恐怖に煽られた妄想が、いつしか現実の話になる気がしてならない。
「やべえな……。ざっと10,000人はいるぜ?」
「どうやって家まで帰れば……」
「大丈夫だよ、メントちゃん、ホープちゃん」
メリットが無理やりこじ開けた屋上にて、にこやかな獣娘パーラは言う。
「愛と平和の守護神が、すぐそばにいるから!!」
危うく挿入ミスするところだった……。
いつも閲覧・ブックマーク・評価・いいね・感想をしてくださりありがとうございます。この小説は皆様のご厚意によって続いております!!




