臆病者
「分けすぎたの?」
「オリジナルは臆病者だからな」
どこか忌々しく吐き捨てるような態度であった。
やがてルテニアの要請したレイノルズちゃんたちが現れ、ルーシをどこかへ連れていってしまった。また、亡骸となった他の魂を持つヒューマノイドも運んでいってしまう。
「さて、私も行かなければならないが、質疑応答はこれくらいで良いか?」
「ひとつだけ聞かせて」
「なんだ?」
「ルーシちゃんは死なないのよね?」
キャメル・レイノルズの懸念事項はそこに尽きる。血はつながっていないし異世界人ではあるが、彼女にとってルーシは欠かせない大切な存在なのだ。
それを理解したルテニアは返答する。
「死なないさ。ただ、人格の骨格はまた変わってしまうかもな」
「ルーシちゃんが生きてさえいればそれで良いわ」
「胆力のある方だな。ま、開けてからのお楽しみだ」
*
ルーシ・レイノルズはいつもの病室で目を覚ました。
その銀髪幼女はベッドの隣に置かれていたタバコを咥え、寝タバコし始める。
「チクショウ。一体なにが……」
焦りをかき消すためにタバコを咥えている。漠然とした焦燥がその幼女を襲う。なにか取り返しのつかないことを仕出かしてしまったのではないかと。
紫煙を何回か吐き出したあと、ルーシは時刻を確認する。深夜の3時半。面会どころか同じ病院にいる者とも会えないだろう。このわずらわしさを解消する方法がない。
と、思った矢先、ルーシは銀の髪が伸び切っている幼女を眼中に捉える。
「ルテニアか」
「そうだ。自分すらも殺めてしまった気分はどうだ?」
「……あれはヒューマノイドに私の魂をつぎ込んだものだったんだな。クソッ。いまになって色々思い出すとは」
「分裂した魂を消滅させたことで、記憶になにかしらのアプローチがかかったのかもしれないな」
「ああ、今度は逆だ。この世界に来てからの記憶はある程度思い出したんだが、前の世界の記憶が飛んじまった」
「愉快な脳みそをしているようで」嫌味だった。
ルーシはベッドから立ち上がり、ロスト・エンジェルスの夜景を見つめながら2本目のタバコへ火をいれる。
「そして……厄介事が近くにいることも思い出しちまった」
「ヤクネタかい?」
「クイン・ウォーカーほどではないかもしれないが……私を修羅の道にいざなったクソ女の魂を感じ取れるんだ」
「それは愉快だな。同じ能力を持っている以上、魂で引かれ合うわけだ」
ルーシは眠り姫になる前、裏社会のビジネスを海外にも伸ばそうとして兵隊を隣国ガリアに送った。
結果としてその兵隊は壊滅。だが、ルーシの持つ最精鋭の部下1,000人を藻屑にできる者は限られている。
「で? その女の名前は? どうせこの世界でも名前を売っているのだろう?」
ルーシはどこか身体を震わせながら言う。
「スオミ・アウローラだ。武人皇帝のひとりで、いまやゲルマニアの諸国を支配している」
21世紀最大の怪物を生み出した怪物は、必ずこの世界にいる。
キリが良いのでシーズン3チャプター1おしまいです。では、いつものヤツ↓
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