ルーシの魂
あれ? なんでタイトルが? ……まあ気にしないでください
「な、なにが……っ」
魔力を吸い取られなかったキャメルとルテニアは、その圧倒的な虐殺をいまだ飲み込めていなかった。それはキャメルの口ぶりからも分かる話だ。
「……。ついに自分殺しをしてしまったか。マスター」
ルテニアは倒れたルーシのもとへたどり着く。白目を剥きながら泡を吹く銀髪の幼女を一瞥し、ルテニアは自身の権限を用いてほかのレイノルズちゃんを呼び出す。
「モデル:ルーシ・レイノルズ、応答求む」
『こちらイースト205番。オリジナルはなにをした?』
「同族殺しだ。3体のスレイブが犠牲となった」
『こちらイースト200番。由々しき事態だ。オリジナルに殺されるなど』
『イースト205番、オリジナルの回収班を用意する。目撃者は?』
「キャメル・レイノルズただひとりだ」
『同じレイノルズか……。ならば口封じはできんな』
『早急に行え。他のモデルに悪影響が及ぶ』
『了解』
イヤリング型の無線機を切ると、ルテニアは冷静を装うために深呼吸をする。
そこに駆けつけたのは、ようやく現実を理解したキャメルだった。彼女は緊迫した表情でルテニアへ訊く。
「いったいなにがあったの……? ルーシちゃんそっくりの子が現れてその子たちはルーシちゃんを殺そうとしてたし、ルーシちゃんに至ってはこの子たちを殺してしまった。貴方たち、何者なの?」
キャメルも勘づいたようだ、ルテニアの正体に。
いまさら嘘八丁が通じるとも感じなかったルテニアは、キャメル・レイノルズの目を見据えて言う。
「……。貴方はレイノルズ家の一員だ。そのため我々の存在について知れる権限がある。すべて話そう」
ルテニアはすこしうつむき、首を横に振って答え始める。
「我々がルーシのクローンであることには先ほど説明したので割愛する。問題はなぜ我々がルーシのクローンとして存在しているか、だろう?」
「ええ……」
「私たちはルーシ──オリジナルから魂を分け与えられて生まれた無機物だ」
「魂?」
「ルーシの力は人間の魂を分裂させるところにまで至った。それが故自身の魂を素粒子のごとく分裂させ、人工知能を持った人形にしか過ぎなかった我々に注入したのだ」
暴かれる狂気の真実。そもそも魂という概念が人間の身体のどこに通っているのかも分からないのに、ルーシはそれを分散させることに成功したわけだ。
「……。貴方たちはヒューマノイドなの?」
「元はそうだ。だが、魂を分け与えられた時点で、我々はロスト・エンジェルスにおけるヒューマノイドとも別物になってしまった」
ロスト・エンジェルスではヒューマノイドの研究が進んでいる。脳波を使って遠隔操作できる自分というわけだ。科学の進歩は猟奇的な哲学も孕んでしまうという良い例だが、科学者ですらないルーシはその狂気すらも軽く超えてしまったのだ。
「ともかく、いまオリジナルが行ったことは緩慢な自殺行為だ。ほんのすこしの魂が3つ消えただけとはいえ、そもそもオリジナルは魂を分けすぎた。早い話が、我々が全員殺されたときオリジナルは真の意味で死に至るというわけだよ」
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