目つきが怖いよ、お姉ちゃん
「お父様とお姉ちゃんはどういう関係性で?」
湯船に入ったルーシは、開口一番ふたりの関係を洗い始めた。
「貴方のお父様と私は兄妹よ」
「ずいぶん歳が離れているようで」
クールが33歳で彼女はおそらく高校生ほど。特別驚くこともないが、やや気になるところではある。
「そうね……。お兄様が早々に家を出てくのが分かってたから、急いで私を産んだのかもしれないわね」
「まるで貴族階級のような話だな」
「貴族より上よ? 私たちは元王族なんだから」
「王族?」
「ロスト・エンジェルスはもともと王政だったのよ。私が生まれる遥か前の話だけれど。それすらも覚えてないのね」
「頭空っぽのほうがいろんなもの詰め込めるからな……」
「ねえ、ルーシちゃん」
「なんだ?」
「MIH学園のことも覚えてないのよね?」
「MIH学園?」
「私たちの通ってた学校よ。MIH学園は俗称で、正式名称は『メイド・イン・ヘブン学園』ね」
そういえば復活したとき学校がどうたらこうたら言われたが、どうやら本当にルーシは学生だったらしい。信じがたい真実である。
それに加えてキャメルの言い草は過去形。なにがあったのかさっぱり分からないが、なにかがあったのは間違いない。
「通っていたということは、ひょっとして学校が倒壊したとか?」
「勘が鋭いのは変わらないわね……。そうよ」
「そりゃ怖い話で」
「ただ復興も進んでるわ。それに遠隔授業はもううんざり。学校は通わないと意味がないのよね。って、話がそれたわね。要するに記憶を失ったルーシちゃんには変な話かもしれないけど、MIH学園にもう一回通う気はないってことよ」
キャメルはルーシにそう言った。前世であれだけ暴れ狂った無法者が学校に通うなんてバカバカしい話ではある。だが、愉快でもある。
「まあ……そこに私が通っていたというのはどうしても信じられないけど、通うのも有りかもな。なあ、ルテニア」
ルテニア、と名付けたレイノルズちゃんは自分の名前を認識できていないのかしばし反応しなかった。だからルーシは彼女の脚をつねる。
「いたッ!! ……ああ、通ってみたらどうだ? お姉さま」
だんだん間抜けになってきたルテニア。まあこれくらいのほうが制御しやすくて良いかもしれない。
「よーし、学生再開するか。アークやメリットもいるんだよな? アイツら知り合いっぽいし」
「……。アーク?」
「私が目を覚ましたときアークがいたんだ。お姉ちゃんも知っているのか?」
「そりゃもちろん知ってるわよ……。私のボーイフレンドだもの」
目つきが怖いよ、お姉ちゃん。どんな関係なのか知らないけど捕食者のような表情で少年のことをボーイフレンドと言うヤツなんて見たことないよ。
「ま、まあ。なら余計に楽しそうだし良いかもな」
3人は湯船の中に溶けていくかのごとく、くだらないおしゃべりをしながらのぼせるまで風呂に入り続けた。忘れることは罪ではなく、思い出せないことが罪だと考えているルーシは、すこしずつキャメルとの思い出を補強していくのだった。
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