見せ合いっ
「ふ、ふーん……」
あからさまに喜んでいるじゃねェか。まァそうなるか。
「よくわからん魔術を使うともいっていたが……それはスキルの一種なのか? 私のスキルも汎用性は高けェが、結局与えられた以上のことはできない。だから気になるな。オマエのスキルが」
ルーシは直接的な質問を投げる。ルーシのスキル──超能力の性質上、これから強敵と闘うことを考えれば、手札は多いほうが良いのだ。5分間程度だけ最強では、話にならない相手も多いだろう。
「……教える義理、ある?」
「ねェな」
男の姿、前世の姿ならば、適当な甘言でこの女を口説き、能力を根こそぎ盗み取れただろう。しかし、いまのルーシは10歳の幼女だ。女をどんなに口説いたところで、同性愛者かつロリータ・コンプレックスでもない限り、相手にもされない。
なので、ルーシは別の方法を考える。
「じゃあよ、互いで青写真を交換し合うってのはどうだい?」
「……スキルを見せ合うってこと?」
「そういうこった。なに、見せ合うだけだ。それをものにできるかは当人次第。それに……私もMIHに入学するんだから、次の壮麗祭でライバルになるヤツのスキルを見ておくのは結構有意義だと思うぜ?」
「悪くない提案だけど……」
「だけど?」
「アンタ気づいてないの? 強盗がこっちに向かってきてる」
ルーシのカバンには巨額の金が詰まっている。そしてルーシは買い物においてその金を何回か見せつけた。それを見た悪党たちが集結してもおかしな話ではない。
「なるほど。なら余計にやりやすいな。こっちまであと何秒でたどり着く?」
「30秒」
「了解。そこで青写真を見せ合おう」
正直なところ、強盗が複数人来たところで問題はない。所詮は下端が命令されて訪れただけだからだ。たいしたヤツがいるとも思えないし、実際メリットが取り乱していない時点でそれは強固な証拠になる。
しかし、さすがに撃ち殺してはまずい。これから高校へ入学するというのに、公然の場で人を殺したら、その話は完全に流れてしまうのだ。裏社会にいれば感じないもどかしさ。けれど、再3再4思っても、文句ばかりつけていられない。
「来た」
「よっしゃ」
ルーシは自分の意思をもって、黒鷲の翼を展開する。メリットはやや面食らったような顔つきになったが、すぐに普段の無表情を取り戻し、敵性因子を潰すべく構えた。
「よォ、嬢ちゃんたち! 悪リィことはいわねェから金ェ差し出せよォ! じゃねェと……児童ポルノができあがるぜ?」
ルーシは煙草を灰皿へ捨て、
「野郎の裸画像って何メニーで売られるんだろうな」
そうつぶやいた。
「さあ。イケメンとイケメンがしゃぶり合ってる写真なら言い値で買うけど、コイツらかっこよくないし」
「あれか、腐女子ってヤツか」
「違うけど。ただ男同士が恋愛してるのが好きなだけだけど」
「そうかい。ま、そういう話はあとでしよう。右側のヤツは私が潰す。左はオマエな。異論は?」
「ない」
「よし」
そんなわけで戦闘開始である。
ルーシの目的はただひとつ。メリットの戦闘方法見ることだ。彼女が"なに"をしているのかわかれば、キャメルやクールといった猛者に聞けば要領の得た答えが帰ってくるだろう。要するに、この強盗犯と闘うのは片手間なのである。
その証拠に、
「クソッ! やられてるッ!!」
翼で身体を撃ち抜かれた男が声をあげる。
「おいおい、喧嘩ふっかけてきたのはそっちだろ? もっと気張れよ。じゃねェと……」
もはや立っている理由もないし、翼を展開する理由もない。ルーシはベンチに座り背もたれに手をかけ、勝敗が決まっている闘いへ邪悪な笑顔を咲かせる。
「痛てェ目にあうぞ? ……いや、もうあっているか」
「……ちょっと。座ってサボるつもり?」
「いや、ちゃんと仕事はするさ」
翼がなびけば羽が生まれる。羽はいくらでも操れる。どんな法則にも変更できる。
ナイフのように固くしたり、火を起こしたり、凍らせたり、爆発させたり……。
だからルーシは2本目の煙草を咥える。
「さて、お手並み拝見」
人数50人。ルーシはぴったり25人を虐殺している。もっとも、死なない程度に抑えてはいるが。
では、メリットの場合はどうだろうか?
「……へェ。手に風を集めて、爆発を起こしているのか。おもしれェ使い方だ。だが、こんなもんじゃねェよな?」
一撃一撃はそう重くない。派手に吹き飛ばされるわけでもなければ、体内から破壊しているようにも見えず、喰らった男たちも口から血を垂らすものの、致命傷には至っていない。
ならば、他に策があるはずだ。
「今度は……敵の動きを止めたな。いや、止めているというより、1瞬動けなくしているだけか」
この時点で風力操作系の魔術師ではないことが決定的になる。風力操作で人の動きを止めるほどスキルのレベルが高ければ、あんな細かい攻撃などせずに台風のような現象でも起こして1掃してしまえば良いからだ。
「お次は……おお、ビリビリしているな。これで風力操作の線は完全に消えた」
電力操作だろうか。しかし攻撃能力はそこまで高くない。スタンガンと同等程度だ。くらった男はもん絶して動くけなくなるものの、命までは奪えていない。この状況、この所属で人を殺めるわけにもいかないので、正解ともとれるが、そもそもメリットには相手を殺し切るだけの武器がないようにも思える。
「メリット〜。相手は拳銃抜き始めたぞ。学生には負けたくねェらしい」
「……わかってる。ていうか、手伝いなさいよ」
「もう疲れたか?」
「そういうわけじゃないけど、青写真を交換するんでしょ? だったらそっちのチカラも見せてよ」
「そーかい」間の抜けた返事だ。
ルーシは煙草を灰皿へ捨て、身体をストレッチのように伸ばし、1瞬、ほんの1瞬、黒鷲の翼を20メートルほどまで巨大化させる。
メリットにはそれが見えていた。そしてこれから行われる行動も。
刹那、メリットとルーシを除くすべての者が倒れ去った。
「あー……疲れた。身体が暑い」
ルーシは再びベンチへ座る。体力の低下と超能力の大幅な劣化。それは否めない。前世だったらこの程度の攻撃、数十回は放てたのに。
「……なにしたの?」
「魔法さ」
(原理はおれにもわからねェがな。まあ、魔法の世界だし、別に良いだろ)
「……あのキャメルの家族とは思えない闘い方」
「なんで?」
「キャメルの家──元王族は超富裕層と呼ばれてて、名字を名乗ることが許される。アンタもレイノルズ家の一員だったら、炎系の新魔術を使うのかと」
(初耳だ。クールはそんなこと一切いってなかったぞ? だがこれも勉強だ)
「まあ……時代の流れってヤツさ。効率化社会だしな」
ルーシの額に汗がたたる。しかし服は脱げない。男時代だったらなんの躊躇なく脱いでいたが、さすがに女ということになっているいま、それはできない。
「と、いうわけだ。私は行く。MIHで会おう。必ずな」
「……ええ」
(最後の最後まで無表情だったな。表情筋が少なすぎるんじゃねェのか?)
*
「もしもし、クール。私だ。念じるだけで電話をかけられるのは便利だな。それで? どこにいる? ……あ? もう帰った? しゃーねェ。迎えは回せよ? キャメルにはこっちからうまくいっておくからよ」
電話を切り、ルーシは筒型の携帯を開く。連絡先にはクールとキャメルのみ。すこし寂しいが、これから増やしていけば良い。
「キャメルにメッセージ送っておくか。えーと……」
『お父様に急遽仕事が入ってしまったらしく 申し訳ないんですが自宅へ帰ります。MIHに私が入学したとき また会いましょう。楽しみにしています』
手短だが、こんなものだろう。そしてすぐ既読になる。
『わかった。お兄様によろしくいっといてね。こちらこそMIHで会えることを楽しみにしてるよ』
「案外潔いな。連絡先交換したし、いつでも会えると想っているんだろう。愛しすぎて恋愛感情すら抱くアニキによ」
とりあえず迎えが来る前に髪だけでも切ってしまおう。ルーシは美容院に入り、背中が隠れるほどの髪の毛を、首元程度まで切ってしまうのだった。
*
「お疲れ様です!! アネキ!」
迎えの車は最前いたクラブへたどり着いた。
「ああ、疲れてねェがな。ともかくご苦労」
やることは多い。メリットの使っていた魔術がどんなものか、MIH学園への交渉開始、傘下に入るというサクラ・ファミリーとの会談。
だが、まず行わないといけないことがあった。
「アネキ、ヘーラーのアネキがなにやっても起きません。ウォッカの瓶を決して離さず、まるで3歳児みたいです」
「わかったよ。良いか? 私があのアホの起こし方を見せてやる」
男女兼用トイレの一角でウォッカの小瓶を持ちながら幸せそうに眠る自称天使。当然のように下着姿。
なのでルーシはパンツを脱がし、彼女の女性器に彼女が持っていたウォッカのあまりを挿入。そして足でそれを押し込んだ。
そして、25歳、ピンク色の髪の毛をした天使は悲鳴をあげた。
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