おれのことが嫌い?
「とはいえ、幼女になったのはびっくりだがな」
日本人の一部は少女になりたい願望があるとかないとか聞いたことがあるものの、まさかそういった願いが一切ないルーシにそんな呪いが乗っかってくるとは驚きだった。
「だが、不思議と悪い気分はしない。おそらくこの国が気に入っていたんだろう。おれは」
そう言い放ち、ルーシは立ち上がろうとベッドから足を出す。しかし先程にも感じていたように、どうやらルーシは歩行障害持ちらしい。歩き始めたと思ったら数歩で倒れてしまった。
「いってェ……」
そこに駆け寄ってきたのは、なにやら奇妙な雰囲気の少年アーク・ロイヤルであった。
「大丈夫? ほら、肩貸すからさ」
「おお、ありがとう」
「邪気のない顔。やっぱり君はルーシであってルーシじゃないんだね」
「あァ? おれはルーシだぞ?」
「記憶を失う前の君は、もっとうす気味悪い笑顔を浮かべてたはずさ」
そんな奇怪なことを言われるものだから、ルーシもすこし頭をかしげてしまう。ヒトのことをうす気味悪い笑顔を浮かべると評価するなんて失礼すぎる……いや、記憶があった頃のルーシこそが無礼だったのか。
「先生方。ルーシは記憶を失ったようですが、それよりまずこの子に杖を用意してあげてください」
「分かった」
看護師たちと医者は去っていった。場にはルーシとアークが残される。
「あれから色々変わったんだ~。といっても、異世界生活での記憶はもうほとんどないのか」
「ああ。さっぱり覚えちゃいねェ」
「お姉ちゃんのことや恋人、友だちも覚えてないの? 寂しいね」
「……。恋人? お姉ちゃん? なあ、おれってどんな感じで転生したんだ?」
「君のお父さんが一番くわしいんじゃないかな」
「父は大統領だろ? そう話せる機会も多くないと思うが」
「なんでそれだけ覚えてるの?」
アークは怪訝そうな表情をしてくる。
なんで、って言われても分からんな。だからルーシは、「いつだか一瞬だけ目を覚ましたんだよ。そのときに訊いた……はずだ」と答える。
「あのスライム娘か」
「そうだ! スライム娘だよ! ちゃんと礼をしないとな」
ルーシは無邪気な笑顔を浮かべた。断片的に残っている記憶では、廃人状態だったルーシの脳髄にスライムを流し込むという狂気の沙汰でしかない荒療治の末、たしか2週間くらいは杖をつきながらではあるが歩けたのだ。
「君のことだ。てっきり見つけて打首にしろって言うかと思ったよ」
「なーに言っているんだい、アーク! おれは恩を大切にするぜ? たった2週間とはいえ人間に戻れたんだから感謝してもし切れないくらいだよ」
「その子の演出した“奇跡”すら君の“闇”は破れなかった。パソコンのOSをクリーンインストールするように、君の悪意を追い払うことはできなかったわけだ」
ずいぶんトゲのある言い方だ。悪意? 闇? それを含めてこそ人間であろうに。
「なあ、アーク」
「なに?」
「おれのことが嫌いなのかい?」
「いや? 大好きだよ。たったひとりの盟友さ、君は」
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