LTASの民よ
なんの着陸体勢も取らず落下してくる幼女を見て、メリットは訝りながらその銀髪碧眼の幼女を自身の手元へワープさせた。
「……っ!!」
その幼女は血まみれだった。見ているだけで痛くなるほどの傷が開き、傷口の果てには背骨らしき白いなにかが見えていた。
「め、メリットさん……」
ホープはかろうじて言葉を失わず、されど震えて携帯を何度も落としながら救急車を呼ぼうとする。しかし通話にならない。この幼女と天使、セブン・スターズたちの戦闘の余波で電波がつながらないのだ。
「……クソガキが負けたってこと?」
天空から舞い戻ってくる男をメリットは捉える。ジョン・プレイヤーだ。大した傷は負っていないのに、彼の表情はどこか感傷気味だった。
「ジョンさん……クソガキは……ルーシは……」
普段の落ち着き払った態度などどこかへ旅立ち、メリットは憔悴しきった表情でジョン・プレイヤーに訊く。訊かなくても分かってしまう結末を。
「……内蔵がぐちゃぐちゃになっちまった人間を再生する魔術なんてねェし、技術も同様だ。こんなあぶねェ場所までついてきた嬢ちゃんたちには悪りィけど……その子は──」
瞬間、クール・レイノルズとアジア系の美少女が現れた。
クールの顔はこわばっていた。暗黒街の花形としての余裕たっぷりな笑みも、LTAS最強の魔術師としての自負と態度も、このときに関してはまったくもって作用しない。
そんな中、アジア系の美少女は静かに目を閉じる幼女にキスをした。
「馬鹿だよ、ルーシ。馬鹿だなあ、本当に馬鹿だよ、お兄ちゃん……」
すこしずつ声を震わせていくアジア系の少女──タイペイ。裏社会で生き残るためのノウハウを教えてくれたのはいつもルーシだった。でももう、あのときのルーシはここへはいない。
「な、なあタイペイ。クイン・ウォーカーが吐き出した『賢者の石』っていうもの使えば、姉弟は蘇るんじゃねェのか?」
しかし、クールはそんな話を聞かされていた。だからなぜタイペイが、今生の別れのような態度なのか分からないのだ。
「……蘇るよ。けど、そこまでしてルーシを苦しめたいの?」タイペイは息を吐き、「21世紀最大の怪物は、ついに鎮魂されるんだよ」
タイペイが地上にいられる時間もわずか。彼女は最後こう言った。
「もうルーシにすがるのはやめて、みんな。奇跡の乱用は……私にとってたったひとりのお兄ちゃんすら奪うんだから」
終局である。つい最近までそこにいることが当たり前だった愉快な幼女は、その重ねてきた罪の重さに耐えきれず自沈していった。
あの幼女を必要とする者は多い。
だが、その幼女にこの世界は不必要なのだ。
それでも、LTASの民の諦めはとても悪い。
「……なあ」
タイペイとルーシがいなくなった世界にて、クール・レイノルズは口を開く。
「ルーシだったら、それでもまた奇跡を起こしてくれる……まだアイツはほしかったものを手に入れてないんだ」
ルーシのほしかったものをいっしょに探す。これが愚かで愛しいLTASの民に課せられたせめてもの贖罪だ。
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