天王山
ジョン・プレイヤーとゴールデンバットというふたりの異次元魔術師が闘う中、メリットはルーシを匿っていた。匿わないとあの守護天使(?)がルーシを殺しに来るのだ。
「電池が切れたように寝て……。寝顔だけは可愛い」
一方ホープ。彼女はメリットとさほど離れていない距離にいた。だが心ここにあらずといった感じで、やはりシエスタのことが気になるようであった。
「本当に死んでないのかな……」
心配のひとつやふたつしたって罪ではない。それに、なぜシエスタはあんな態度で挑んだのか。負けると分かっていながら、それでもルーシを助けることに意味なんてあったのか。
「でも、ルーシはあのときNLAの危機を救ったんだよね……」
ルーシはなにか奇跡を起こしてくれるような気がする、と感じる。いまはなぜかうんともすんとも言わずに眠っているが、されどこの状況から捲れるのはルーシだけなのかもしれない。
「そう。このクソガキはすべてを見透かしてる。だから勝利は私たちがもらったようなもん」
「そうだと良いけど……」
瞬間、音が破裂した。
メリットは旧魔術で壁をつくり、なんとかオブジェクトの破片が飛んでくるのを交わした。
しかし、その余波はあまりにも残酷なものだった。
「……!! ゴールデンバットさんが……!!」
音の破裂とともにゴールデンバットがこちら側に吹き飛ばされてきたのだ。メリットは慌てないように努め、しかし確実に慌てながら治療術式を彼に放とうとする。
「よォ……嬢ちゃんたち……ここァLTASで1番危険な場所みたいだぜ……!?」
「……知ってます。でも、逃げるわけにもいかない」
メリットは確固たる意志のもとそう言った。
「危険なのに逃げられねェのは人間くらいなモンだ……。ああ、嬢ちゃん……治療はしなくて良い。どうやらおれは足手まといのようだからよ」
セブン・スターズが『足手まとい』になる地獄。ただちに避難すべきなのは間違いない。
その一方、ジョン・プレイヤーのやかましいほどの笑い声も聴こえてきた。
「ジョンさんはクレイジーだろ……? あのヒト、強ェー敵が現れれば現れるほど笑うんだ。おれには無理だ。どこかでビビっちまう」
「それが普通ですよ……」ホープはそう言う。
「……かもな。さて、と」
ゴールデンバットは折れた脚を魔力で再生させ無理やり立ち上がり、いつだか話したルーシがいることを知る。
「このガキ、クールさんの娘なんだろ?」
「そうです」メリットが答える。
「希望を託すには充分だ。情報筋によりゃ、この子は魔力のみで身体を動かせるデバイスをつけてるらしいし、おれの全魔力を分けてやる」
「……え?」
「正直に言おう。ジョンさんでもあの化け物には勝てない。あれは『悪魔の片鱗』をまとった攻撃すら『反射』してしまう。ジョンさんの魔力でようやくある程度攻撃が通るレベルだ」
「……守護天使なんじゃないんですか?」
セブン・スターズになれる基準は守護天使相手に単体で勝てるというものもある。だから、メリットは怪訝な顔になる。
「……おれの考えが正しけりゃ、あの守護天使はいまもっとも神の座に近い」




