"守護天使"クイン・ウォーカー
突如としてロスト・エンジェルスに出没した巨大天使。
彼女はなにもしゃべらない。なにかを待っているかのように。
そんな態度を見て、ルーシ・スターリングは軽い舌打ちをする。
「舐められたものだな。私が攻撃するのを黙って待っているわけだ」
「テレパスで会話でもしてるの?」
隣にいたメリットは怪訝そうな顔をする。
「いいや……直感ってヤツだよ。さて、仕掛けてやろうか」
出し惜しむものはなにもない。ルーシは手に『悪魔の片鱗』をまとわせ、腕を人面鳥のごとく翼へ変怪させていく。そして銀髪の幼女は羽ばたき、手始めに羽根でその天使を貫く。
だが、まるで効いていない。像に蚊が挑んだところで勝ち目などないからだ。それどころか、ルーシの黒い鷲の翼がへし折れ、幼女は地面に落下していく。
「ッてェな……」
その巨大天使クイン・ウォーカーは、ニヤリと笑った。
「ヒトの子よ。まさかその程度で私に挑んだのか?」
その煽りを聞いたルーシは、やはりニヒルな笑みを浮かべる。
「ンなわけねェだろうが。勝ち目のない戦争するほど馬鹿じゃねェんだよ、こちらは」
「ならばどうやって私に攻撃を加えるつもりだ?」
「そうだなあ……。こういうのはどうだ?」
ルーシは手を挙げる。それを見たメリットは彼女がなにをしようとしているのか知り、『悪魔の片鱗』で自身の魔力を抜き取られないようにガード体勢に入った。
「カイザ・マギアか」
「ノース・ロスト・エンジェルス200万人の魔力がぶつかれば、オマエはどんな吠え面かいて懇願するんだろうな?」
「ああ……まったく同じ言葉を返そうか」
刹那、余裕たっぷりに笑っていたルーシの表情が覆される。
(魔力が吸収されねェ!?)
「ヒトの子よ。カイザ・マギアはその者にひれ伏した魔術師たちが差し出すものだ。私と貴様、果たしてこの国の民はどちらにひざまずくと思うか」
膨大な魔力がクイン・ウォーカーの掌に収まる。そしてそれは慈悲もなくルーシへ発射された。
……だが、ルーシは寸のところで質量を持つ魔力を防御していた。
ルーシの能力、超能力は『存在しない現象・法則を操る』というものだ。そこには無限大の可能性が秘められている。たとえば確実に魔力を防ぐ法則を生み出し、それを即座に適応するなどの荒業をこなせるのだ。
「ほう……」クイン・ウォーカーは素直に感嘆する。
「リカバリも効かせられねェんなら、おれァ21世紀最大の怪物には値しないんだよ」
「不愉快な話だな」
「ああ、とても愉快で痛快だ」
ルーシは一旦背中に翼を移し替え、そのサイズを数百メートルにまで伸ばしていく。
「なあ。ちょっとテストするぜ」
羽根をクイン・ウォーカーにぶつける。当然だが砕ける。
「なにがしたいのだ?」
怪訝になる天使をよそに、ルーシは不敵に笑う。
刹那、翼の色が金色に変わった。金鷲の翼である。
金鷲の翼は奇跡を起こす。それは、崩壊寸前であったNLAを再生させたときからなにも変わっていない。
そして、その翼はクイン・ウォーカーの腕を貫通した。




