ノース・ロスト・エンジェルズでの一件
まだ『クイーン』には届かない。もどかしい感覚である。
そんな中、ルーシの背後にエネルギーが発生した。
「……ッ!?」
振り返る余裕はない。翼を背中に広げ、その質量をもって背後のエネルギーを相殺しようとする。
だが、様子がおかしい。そしてその異変に気がついたとき、ルーシは地べたへ急落下していた。
「──ご! はぁ……!!」
人間の肉は案外固いことを知れるほど、強い衝撃を喰らってしまった。
飛び出た骨は法則を乱すことで再生し、ルーシは天空を見上げる。
「おいおい……。ぐちゃぐちゃになっても行動可能なのかよ」
そこにはベルだったものがいた。死骸があやつり人形のようになっており、こうなってしまうと燃やしてしまうほかない。
「……チッ」
魔力も残りすくない。されどケリはつけなければならない。ルーシは地面を蹴って天空へ向かおうとした。
そのとき。
「クソガキ。なに騒いでるの?」
青い入院服から垣間見えるタトゥー。入院中だからかメガネをかけていて、根暗で不気味な少女。
「私は騒いでいない。騒いでいるのは国そのものだ」
「気に入らない言い回し。アンタはいつもヒトを小馬鹿にする」
そう言い放つと、メリットはルーシの代わりに地面を蹴り飛ばして空に行ってしまった。
「おれが始めた戦争だっていうのによ……」
仕方ないので、ルーシはメリットを追跡する。
「メリット、オマエじゃ役不足だ。大人しく下がっておけ」
「悪いけど、アンタの計画は分かってるから」
「あ? なんでだよ」
「クーアノンの絶滅、でしょ? でもアンタ分かってるの? この気色悪い死体燃やしたら、クーアノンのトップはアンタを本気で殺しにかかるって」
「……どういう意味だ?」
「けど、倒さないとこっちがやられる。策士策に溺れるとはこのこと」
意味深長なメリットの言葉の意味を考えるには、時間が足りない。
そして、この場を切り抜けないと先へは進めない。
だからメリットは、旧魔術を使って手に炎を生み出す。
「……キャメルもどうなるんだか」
そんな小声とともに、メリットは拳をベルだったものに撃ち込む。
ルーシと途中乱入してきたメリット、及び後方支援を担当していたシエスタは、『守護天使』ベルに対して勝利を収めた。
地上に戻るルーシとメリット。銀髪の幼女は、「先ほどの意味、教えろよ」とタバコを咥えたメリットへ問いただす。
「クーアノンどもの巣窟になってる掲示板である書き込みがあった。LTAS救済を3日後から1時間後に繰り上げると」
「1時間後? それはいつからだ?」
「いまから55分前」
「あ?」
メリットは天空を指差す。
そして、ルーシの脳内に言葉が流れ込んでくる。
『……これよりロスト・エンジェルスの是正を始める。……現在、ロスト・エンジェルスに巣食う、救いがたき者たちが複数名いる。……私はその対処のため、原始的な方法を用いる』
瞬間、カチッ、という音が聴こえた。
ノース・ロスト・エンジェルス、連絡遮断。




