"フランマ・クリュスタルス"
ルーシとベルが対峙した。
片や銀髪碧眼の幼女。片や露出狂な守護天使。
この天空を巡る闘いの運試しにはちょうど良いだろう。
先に仕掛けたのはベルのほうだった。
氷の飛礫がルーシに襲いかかる。幼女は無作為に翼を動かし、その攻撃を防御した。
「そりゃ喰らわないやよね! 鬼みたいな魔力で溢れかえってるもん!!」
「分かっているのなら、もっと大きな攻撃を出してこいよ。ビビっているのか?」
「言わなくても!!」
ルーシはベルを煽り、さらに巨大な攻撃を繰り出させようとする。当然老獪な戦闘狂であるこの幼女が、なんの目的も持っていないわけがない。ルーシの狙いは、この新たな形態の真価と限界を知ることだ。
そして衝突。ベルの攻撃は、氷の飛礫という概念を等に超えていた。北極からそのまま持ってきたかのような氷塊が、膨大なエネルギーとともにルーシの頭に降り掛かってくる。
「こりゃ……すげェな……!!」
「うちの実力分かった?」
「ああ……。よく分かった──!!」
ありえない現象で破壊するには時間が足りない。わずかなタイムロスが生死を分ける。ならば正面突破だ。
ベルは思わず頭をかしげた。なぜこの幼女は100メートルをゆうに超える氷の塊に突っ込んだ? まさか真正面から破壊できるとでも?
「キャメルお姉ちゃん、必殺技借りるぜ」
いつだかキャメル・レイノルズの自宅へ遊びに行ったときの話だ。
彼女は魔術を使う瞬間、わざわざ技名を叫んでいた。その現場──トレーニングルームに入ったルーシの存在に気が付いた少女は赤面し、必死に誤魔化そうとしていた。
技名を付けるなんて子どもじみた発想だが、案外景気づけにはちょうど良いかもしれない。
「フランマ・クリュスタルス!!」
瞬間、ルーシの翼が高熱を帯びた。そこから発せられた熱波によって、氷塊はみるみる間に蒸発していく。
「うそん!?」
ベルの攻撃手段と防御手段が1瞬にして消滅し、ルーシの拳が直接彼女に届く間合いまで狭まれた。
「嘘なわけねェだろうが!! これはてめェらが始めた現実なんだよ!!」
ルーシは1瞬ハーピーのような状態を解除し、腕を生やす。
魔力が込められた拳。それをルーシは容赦なく彼女の顔面にぶつけた。
「ぐっ!?」
「脳が揺れちまったようだな!! おめェらも元は人間だ!! おら、情けねェ鳴き声あげていねェで応戦しろよ!!」
再び腕を翼に戻し相手を本気で殺すために、殺意しか込められていない色に翼の色が変化していく。
黒と紫の翼。黒を基調としながら、血管のように紫色が動き回っている。
「痛い……痛いよ……」
そんな懇願など気にも留めない。自分の目的のためならば、泣き叫ぶ子どもだって殺す。それがルーシ・スターリングという21世紀最大の怪物だ。
瞬間、触手のように伸びた無数の羽根が、ベルを食いちぎった。
穴だらけの死骸が力なく地面へ落ちていく頃、ルーシは疲弊した表情で翼を元に戻す。
「残り1匹か……」




