陽キャなんて嫌いだっ!!
「こ、怖いわけじゃないし」
「分かりやすいヤツだなあ」
シエスタは呆然としながら、メリットに言う。
「おれが怖ェー? こっちからすりゃ、全身タトゥーまみれのほうが怖いけどな」
そのアルビノ少年の言い分は確かなものであった。見た目は陰気な少女なのに、病人服からも透けて見える蜘蛛の模様は不気味としか言いようがないのだから。
「……目が怖いもん」
「は?」
「陽キャなんて嫌い……大嫌いだ!!」
ついに語気を荒めたメリットは、どこかへ全力ダッシュで行ってしまわれた。ルーシはそれを見てケラケラ笑い始める。
「無邪気でかわいいものじゃねェか! なあ?」
「いや、普通に心配だけどな?」
ルーシに結構な勢いで背中を叩かれたシエスタは、それでもメリットのことを心配する姿勢を見せている。
「アイツ、キャメル相手にもあんな態度なんだぜ? 愉快だろう?」
「よく分かんねェけど……嫌なもんはみんな嫌だろ」
ルーシは笑顔を絶やさず、「あーあー。これからの展望を話そうと思っていたんだがなあ」とつぶやく。
「これから? MIH学園が木端微塵になったのに、なんかする余裕あるんかよ?」
「成功を収めるための致し方ない犠牲だよ」
「その所為でホープも入院してるのに?」ルーシを睨む。
「私が常にホープを守れるとは限らんし、むしろその役目はオマエが担うべきだろう?」
「ケッ。気に入らねェヤツ。会ったときから思ってたけど」
立場が違っていれば、宣戦布告にも捉えられるセリフだった。だが、いまのふたりは高校生だ。だから許される。これもまた青春というヤツなのだろうか。
「そうかい。だが、オマエがホープを思いやる気持ちは尊重したい。どうだ? 私の計画を訊く気はねェか?」
「あ? 火星の裏側に宇宙人でも潜んでて、それを滅多殺しにでもすんのか?」
「近いな」
辟易とした表情で溜め息をつくシエスタ。この幼女、なにか危険な薬物でも使っているのであろうか。どのみち話を真面目に訊くほうが愚かしい。
「悪りィけど、オマエの誇大妄想に付き合うつもりはねェぞ? ホープの見舞い行かなきゃだし」
「駄目だ。話を聞け」
「……義務はねェだろうが」
「数分で終わる」
「ああ、クソ。分かったよ。話ってのは?」
ルーシは満足げに微笑み、シエスタの赤い虹彩をしっかり見つめながら宣言する。
「結論から話そう。ロスト・エンジェルスは無差別空爆を受ける。推定死傷者は200万人だ」
「あ?」
「だが、この国以外に爆撃機を持つ国家はない。と、なればだ。人智を超えた連中が攻撃を仕掛けてくると考えるのも正常だな?」
「オマエ、さっきからなに言ってるんだ?」
「真実だよ。インターネットの生み出した真実だ」
瞬間、音が炸裂した。それがもたらす大惨事を理解していたのは、ルーシだけだった。
病院の窓ガラスというガラスが割れ散らかる。警報音が鳴り響き、そもそも動けない患者たちに絶望だけを知らせる。
「なにが──!!」
「なるほどねえ……」
ルーシは衝撃波に吹き飛ばされ、しかし意識を保っているシエスタに宣告する。
「私とオマエで終わらせるぞ。カタギに手ェ出すあたり、クイーンも焦っているようだからな?」




