友人たちへのお見舞い
あのあと、ルーシ・スターリングはどこへ向かっていたのか。
その答えは、当の本人が明かしていた。
「よォ、メリット」
MIH学園防衛戦で名誉の負傷を負った、陰気で刺青だらけの身体を持つ少女メリット。彼女はルーシを見て、首をひねる。
「なんだよ、愛想がねェな」
「私たちのことを利用したヤツに、愛想なんて振る舞う必要ある?」
「ねェかもしれないが、私たちは盟友だろう?」
ルーシは一般患者たちもいる病室にて、チープな椅子にもたれる。
「盟友? 誰と誰が?」
「これがツンデレってヤツかい?」ニヤリと笑う。
「実力さえ及ぶのなら、アンタのことなんていますぐ殺したいけど」
「オマエに殺されちゃ寂しいぜ」
そんな会話である。憎まれ口を叩き合いながらも、なんだかんだ互いを認めているのだ。その証拠に、ルーシはタバコを1本差し出した。
「……ここ禁煙」
「なんだよ、せっかく1ミリのメンソール買ってきてやったのに」
「普通、花とかを買ってくるべきでしょうに」
「まあ良いや。屋上行こうぜ」
その銀髪碧眼の幼女は、どこからか飛び出ていた銀色の羽根をメリットの脚に当てる。
「動けるだろう?」
「……なんの魔術?」
「愛と平和の守護神なのでね」
答えにはなっていないが、ルーシ相手にまともな返答を求めるほうがおかしい。
メリットは立ち上がり、その幼女についていく。
「他に入院しているヤツは?」
「絶壁にホープ、あとアルビノ」
(ホープのことは名前で呼ぶのかよ。アイツ、案外愛され気質なのかもな)
「なるほど。相当な激戦だったと」
「ランク・セブン・スターズ様がなにもしてくれなかったもんだから」
「私は動いていたさ。分かるだろう?」
「ジョーキー候補が変死体になって見つかった。なるほど」
ここで会話が途切れる。特段意味はない。
そうなるとどうでも良いことを考えてしまう。
ルーシの歩幅は狭い。当然だ。150センチほどの身長しかない幼女なのだから。
ただ、そのルーシが歩く速度を落とさないとならないほど、メリットの歩幅も狭苦しい。この根暗は本当に17歳の女子高生か疑わしいくらいには。
ただ、そういうマイペースなヤツのことをルーシはとても気に入る習性があるらしい。
「あ」
そんなことを考えていたら、見慣れたヤツを眼中に捉えた。
彼は病室から出てきていた。動ける程度には回復したのであろう。
「やあ、シエスタ」
「よう。メリットとどこ行くんだ?」
「タバコ吸いにだな」
「……オマエら、高校生やってる自覚あるの?」
「多少はあるさ。なあ?」
「あ、うん。ちょっとはね」
刺青だらけの身体。右手の人差し指と中指の間には紙巻きタバコ。しかも片割れは10歳の幼女。
「……まあ、おれもイキってタトゥー入れたし、タバコも吸ってたからなんとも言えねェけどさあ」
シエスタはメリットに視線を合わせようとするが、彼女はどこか遠くを見据えて目を見てくれない。
「……行こ。クソガキ」
「陽キャってヤツらが怖ェのに、墨入れるヤツなんているんだな」
ルーシはそう言ってメリットをからかう。




