そう明なガキ
ロスト・エンジェルス連邦共和国非常事態宣言。3日間に及ぶ国家機能の停止は、他国による侵略の危険性をもはらむ。攻撃的行動を取られた際、ロスト・エンジェルス──LTASが払う対価は計り知れない。
ただ、それでも連邦国防軍は民間人の移動に目を光らせている。
そんな混乱の中、さらなる混沌が生じつつあった。
「姉弟、アークとキャメルはなに考えてるんだ?」
「ひとりはオマエの妹だ。だったら分かるだろう?」
「自分が絶対的な存在になれば、すべての問題は解決するってか……」
ルーシ・スターリングとクール・レイノルズは、翼を展開して天空高くを鳥のように飛びながら、そうした会話を交わしていた。
「でもよォ、キャメルはともかく、アークがそれをやる理由ってないんじゃねェのか?」
「ないと思うか?」
「ああ、ないと思うな」断言する。
「アイツは強ェ連中を見過ぎちまったんだよ」
「強ェ連中?」
「オマエしかり、ジョン・プレイヤーしかり、他のセブン・スターズしかり……もともといじめられっ子だったアークからすれば、眩くて直視もできない存在だったはずだ」
「いまのアイツだったら目も焼かれねェぜ」
「だが、まだそこへは手は届かない。生き急いでいるんだ、アイツは」
魔術の腕が立たないからいじめられていた少年、アーク・ロイヤル。その少年が主にルーシの所為でなまじ強くなり、あわよくばLTASの最高峰魔術師集団『セブン・スターズ』にも手が届く範囲にいる。史上最大の成り上がりが目の前にあるわけである。
だが、そこでアークが見た景色というものは、結局のところ『努力や工夫ではどうにもならない差』だったのであろう。
「気持ちは分かるけどな~。おれだって、若かった頃はてっぺんしか見えてなかったぜ? けどまあ、それもおれが強すぎたからかもしれねェけど」
「アイツらはオマエほど強くない。当然私ほどにも。なら、その差をどうやって埋める?」
「生き急いでるんなら、多少のリスクは踏むわな。神経ガスを打ち込んででも、自分たちをおれらと同じ場所に立っていられるようにしたいはずだ」
「そういうこった……」
「でも、姉弟」
「あ?」
クールはひとつ疑問に感じていた。はぐらかすかどうかは置いておいて、率直に質問することにしたのだ。
「なんでアークとキャメルを救うような真似するんだ? おれなら妹のキャメルを助けるし、アークもついでに助けちまう。だけど、姉弟からすればただの友だちだろ? あのふたりは」
空中高くから降下を始めたふたり。まったく焦っていなさそうなクールとは対照的に、焦燥感がにじみ出ているルーシは、「……私はアークのことが好きなのかもな」と返事する。
「へッ?」
「パーラのことは絶対に裏切らないが、あの野郎は愉快なほどに私の意見を鵜呑みにしない。16歳のガキにしちゃ、そう明だ。だからま……ちょっとそういう感情があるかもしれない」




