強者に馴れ合いは必要ない(*)
「無様なものだなあ? ランク・アマチュア……!!」
金髪の高身長の少年ロンビルは、そうメリットとホープを煽る。
図書室での闘い。突如として起きた壁への砲撃らしき現象によって、ホープは意識を失っていた。
「…………、どうだか」
メリットは奥歯を食いしばる。嘲弄されている事実が彼女を苛み、冷静さを失わせる。
彼女は自覚しているのであろうか。あのキャメルに食らいついたとき、メリットは最初から最後まで冷静だったがゆえ、筋道も最後の最後まで消えなかったことを。
「ご自慢のお友だちがノビてるのにそんな態度? おもしれェ先輩だな」
「正直に言えば、心底腹を立ててる」
「ああ、詰められることもなく伸された雑魚に苛ついてるのか」
「そんなところ」
メリットは腕に魔力を漂わせ、思い切り振ることでそれをロンビルへ当てようとする。
だが、いまさらそんな攻撃が響くとも思えない。頭に血が上っているのか、それとも別の伏龍を仕組んでいるのか。
「おっそ。先輩の足の速さみてー」
ロンビルは難なく交わす。数歩移動すれば良いだけの話だ。
そんな中、メリットはロンビルの背後を指差す。
そこには、凄まじい勢いで動く黒い矢印が数十個うごめいていた。
「アンタ、油断し過ぎ」
壁は完全には崩壊しておらず、この攻撃を仕掛ける者は怒りで会話もできなくなっているだろう。ならば、 ロンビルが直接見える場所に風穴を開けてしまえば良い。
「うおッ!?」
怒涛の大爆撃。手元に持った『カイザ・マギア』を擬似的に再現する魔道具を使い、かろうじてその魔術をはねのけた。しかし、初めてロンビルに有効なダメージが入った瞬間でもあった。
もはや見る影もなく図書室を破滅に追いやった矢印の主は、息を吸い込んで叫ぶ。
「てめえ!! ッホープのことをッゆるさッねえッぞッお!?」
「またランクAかよ……」
呂律が回っていないほど叫ぶメントなど気にせず、メリットは腕に魔力を溜める。どうせメントは使い物にならないし、あの切れ用を見ている限り友軍誤射すらありえるだろう。
そのため、次の攻撃で決着をつけようと、魔力の塊をロンビルの顔面に擦り付けようとしたときだった。
「なあ。先輩たちは仲良いよな」
ロンビルが倒れ込むホープの腕を掴み、彼女を宙ぶらりんにする。
「この肩書きだけの雑魚の彼氏もシエスタ先輩なんだろ? おれ、思うんだよな……」
瞬間、骨が砕け散る音とともに、ホープが廊下側の壁に放り投げられた。
「……アンタ!!」
メリットは、彼女らしくない声を荒げる。
「強者に馴れ合いは必要ないってさ。油断し過ぎ? なら背後見てみろよ」
巨大な人形兵器がそこにいた。全長20メートルをゆうに超える、怪物のような機械。
ロンビルは大麻を咥えて、溜め息混じりに宣告する。
「先輩たちの100日天下はおしまいだ。LTASの覇権はおれたちが握る。どれ、手始めにMIH学園でも破壊しておこうか……!!」




