奪われるか、奪うか
「ああ、オタクらも暇だねェ……!!」
邸宅の先にはクーアノンの信奉者が何十人と押しかけてきている。ルーシは指をポキポキ鳴らして、「かかってこいよ」とだけ伝える。
「うぉおおおおお!!」
大声を張り上げる、という行為は自分を鼓舞するためだと思われがちだが、実際のところ、目の前にある恐怖から逃れようとする、嗚咽や悲鳴のような鳴き声だ。ルーシはそう考えていた。
そして、その声が何重にも重なるとき、ルーシは葉巻を咥えながら魔力を放射するのだ。
「うわぁッ!?」
「ぎゃァああッ!!」
暴風が吹き荒れ、彼ら彼女らが木の葉のごとく吹き飛ばされていく。
魔力は質量を持ち、その気になれば放尿する感覚で放射できる。異世界人のルーシが扱えるのだから、街行く人々もたいていは使えるのであろう。
だが、ことさら『クーアノン』には無理な話だ。彼らの大半は魔力、あるいは魔術を使えない『ニヒル』なのだから。
「弱者は強者の食い物にしか過ぎない」
質量を持った魔力を放出することを『レクス・マギア』と呼ぶらしい。ラテン語で王の魔術。ずいぶん厳つい名前だ。
「てめェはどちらだ? 奪われ続けるか、奪い取るのか」
そんなルーシのレクス・マギアで枯れ葉にならなかった者がいた。
彼はしばし高笑いして、「おもしれェな。ガキがこんな魔術披露しちゃって良いのかよ?」と未だ笑い声だ。
「オマエらが世界中に宣戦布告したときの披露宴まで待機しておけってか? そちらのほうがおもしれェ話しだよ」
「バーカ。こんなヤツらは隠れ蓑に過ぎねェよ。ニヒルの落ちこぼれどもと同じ空気吸ってるだけで、吐きそうになってるんだ。おれァ」
150センチのルーシより当然長身で、髪の先端が黒色で根元が紫色な青年は、どうしても前世を鑑みるとあべこべ感が否めない。
そんな中、ヒトが落下してくる。かなり高く舞い上げられたから、その重さも半端なものではない。まともに直撃すればルーシもただでは済まない程度である。
「空にはヒトがいて、地上には化け物の幼女がひとり。よく分かんねェ世の中になっちまったなあ」
「安心しろよ。よく分かっていねェのは私もそうだ」
「魔力を集中させたわけでもないのに、鷲みてーな翼を展開する幼女が1番分かんねェけどな」
銀鷲の翼がルーシの背中に広がっていた。見た目だけでなくしっかり質量を持ち、鈍器としても削器としても使える優れものだ。だから、空から降ってくるクーアノンの連中は翼に刺されて、そのゴミムシらしい最後の抵抗を殺された。
「だいたい、翼ってのは傷つけちゃ駄目なんだぜ? わずかでも傷があると空を飛べねェからな。鳥さんも大変だ」
「小虫に触れたくれーで傷つくような羽なら、もともとないも同等だろう」
そんな会話を交わし、互いに実力を理解しあい、同時に地面を蹴って、接近する。
ルーシは翼、青年は拳を攻撃手段として選び、大激突の末、アスファルトがクレーンでもぶつけたように破壊されて跳ね上がった。




