メリット&ホープVSロンソン(*)
しかし、それでもこの学園には旨味がある。まだ野望は遺されているのだ。
「後輩たちがなにかを狙ってるってこと?」
「そういうことでしょ」メリットは淡々としていた。
「なら、やっぱりだけど、ここにいるのは危険じゃ──」
3メートルに及ぶ本棚を立ち並ばせた壁が轟音とともに倒壊した。メリットとホープはその耳を破壊するような音の先を見据える。
「なんだ、やっぱりアイツら駄目だったんだ」
身長の高い男子生徒がいた。長めの金髪を結んでいて、右手に持っている大麻の匂いが鼻を苦しめる。
「ランクCの傾奇者にランクA。当たり前っちゃ当たり前かね」
左手には短刀。
ホープは怪訝な表情になる。恐ろしい魔力が込められている物体であることを感じ取ったのだ。
瞬間、その少年はナイフほどの剣を振るう。
「……危なっかしい」
メリットはなにが起きるのか理解しているようだった。彼女はなんらかの魔術を使い、少年の手を1瞬縛り上げ、行動を止めさせた。
「さすが。主席様に食らいついただけはある」
「悪趣味な武器手にして、MIH学園を占拠する気? それ、カイザ・マギアを再現したものでしょ?」
ホープの顔がこわばる。退屈げな少年と、無表情なメリットとは裏腹に。
無差別にヒトから魔力を吸収し、同時に放射する帝王の魔法『カイザ・マギア』。それを再現した、とはどういう意味だろうか。
「そうそう。よく分かってるな」
「でも、それは反則じゃないの? 魔術を使えないインテリちゃんどもが必死こいてつくったおもちゃなんて、学生魔術師のアンタが使っちゃ駄目でしょ」
「アンタとか言うなよ。おれにはロンソンって名前があるんだよ。ロンって呼んでほしいね」
「あっそ」
メリットは一瞬ホープと目を合わせる。おそらく同時に攻撃を仕掛けろという合図であり、ロンソンが只者でないという警告も込められていた。
そんな中、先手を取ったのはロンソンだった。
眩い閃光が暴れ狂う。青から赤へ、赤から緑に。
視覚を奪われてしまえばうまく行動もできない。ホープは目をつむってしまった。
だが、その隙は致命打になり得る。
ロンソンはホープとの間合いを走って狭め、顔が蒼白い細身の少女の顔面を容赦なく殴ろうとした。
(間に合わないっ!?)
「アンタ、悪魔の片鱗も使えないの?」
攻撃を食らうと覚悟した瞬間、メリットもまた至近距離にいた。彼女はロンソンに蹴りを食らわせる。
「チッ。ってェな」
背丈と性別の違いもあって、たいしたダメージを与えられてはいない。
いや、それどころか、メリットの脚からミシミシ……と頼りない音が聴こえた。
「……こっちだって痛い。予想通り硬かった」
「はッ、中折れするような年齢でもねェからな」
下品なジョークとともに、メリットはロンソンの顔を殴ろうと腕を動かす。
しかしこんな足取りでは交わされる。無謀に近い。
そこでホープの出番が回ってくる。彼女は糸を生成してロンソンの肩をつかんだ。
「2対1ってのが気に入らねェな……」
ロンソンは思い切り拳を食らった。それでも鼻血すら垂らしていない。




