ストイックで不気味な同級生といっしょに(*)
国家非常事態宣言。市民の外出は強く制限され、ランニングすらできない。
こうなってしまえば、公然の場で犯罪を働いても暴かれることもない。
「いまのうちにMIH学園を占拠するぞッ!! 軍はこっちに気づいてねェ!」
LTAS最高峰の魔術師養成学園『MIH学園』。再建されたばかりのこの校舎には、ある兵器が隠されているという。
その噂を嗅ぎ取った学生たちは、街を徘徊する国防軍の目を盗んで校舎へやってきていた。
「しっかし、本当に存在するのか?」
「だよな。連邦の根底を覆すほどの兵器だろ? まあ学校に隠しておけばある意味警戒されないけど」
そんな噂話であるが、同時に血気盛んでプライドだけが先走る学生たちの鬱憤を晴らすには、そういう嘘のような儲け話が必要なのだ。
いま学園はもぬけの殻状態。目障りな上級生もいない、はずだった。
ところ変わって図書室。
「あった」
良からぬ考えを持つ生徒と括れるが、必ずしも目的が一致しているわけではない。
刺青だらけの身体を持つ少女メリットは、発禁になった『旧魔術』の魔導書を探っていた。
「全部で10冊程度。あとは持って帰るだけか」
「あの……なんでうちが必要なのでしょうか?」
最近コンタクトレンズに変えたメリットの傍らにいるのは、市民の義務として外出禁止を守ろうとしていた、青髪で顔の彫りがやや浅い少女ホープである。
「アンタくらいしか信用できるヒトがいない」
「メリットさんお強いんですよね……? うちが護衛する意味って……」
「私はアンタを気に入ってる。魔力を開放すれば元気になるところがお気に入り」
「……え?」
「普段は卑屈で自信なしの臆病者。でも、あのアルビノと闘ってたとき、アンタは血流まで良くなってた。アンタの仕組みを知れば、私はもっと強くなれる」
ホープは怪訝な顔になりつつ、メリットの目でなく、彼女が机の上に置いた本を見る。
この少女はストイックだ。自分のためになると踏めば、多少の難題は気にも留めない。シエスタやパーラに守られてばかりのホープには、たどり着くことが困難な位置にいるのだ。
ただ、メリットはホープのことを気に入っているらしい。でなければ、こんな危険極まりない現場に巻き込まない。
「アルビノとは仲良くやってるの?」
そしていきなり世間話を投げてきた。
「あ、え……はい。シエスタもうちのこと好きなはず」
「ヒトの色恋沙汰なんて興味ないけど、アンタらはちょっと特別。クソガキとお姫様、カマ野郎とキャメル、その他諸々とは意味合いが違う」
「な、なにが違うんです?」
「アンタらは実力が拮抗してて、性格・魔術ともに相性も良い。手放さないほうが良いよ。いつか必ず役に立つ、その関係は」
「そ、損得でシエスタのこと見られないです……」
そんなときだった。
「……やかましいと思ったら」
近未来風で広大な図書室にまで、騒がしい学生たちが迫ってきている。
メリットは指をゴキゴキ鳴らし、「臨戦態勢。呼べるなら応援も」とホープに告げた。




