やってから後悔しろ
タイペイは平然とした態度、声色でそう言い放った。
「……おれが人間的に強くねェだと?」
「うん。逆に強いと妄想してたの?」
「妄想ではなく事実だ」
「そう答える時点で弱いんだよ。いや、ルーシは嘘つくとき必ず目をあわせるからさ」
この暴虐な無法者が駆け出しのときから、常に傍らにいた少女タイペイは、ルーシという人間の限界を知っていた。あの哀れな男娼がどんなに着飾ろうと、根は変わらず卑屈なのだ。
「それに……ルーシがこの世界にいるのって、なにも暴れるためだけじゃないじゃん」
「……あ?」
ルーシはタイペイを睨む。だが、タイペイはまったく物怖じしない。
「おいおい……オマエはおれになにを求めているんだい? 神にでもなってほしいのかい?」
「それに準ずる立ち位置かな」
一連の会話を聴いていたヘーラーは、すすり泣くことをやめ、今度は顔を青白くしながら口をパクパク震わせた。
「た、た、タイペイさん……。貴方正気ですか? 瘴気としか思えませんがっ!?」
「うん、貴方より断然まともな思考してると思ってる」
「た、確かに、ルーシさんがこの矛盾を直せればすべて問題は片付きますけれど……」
「ルーシに不可能があるとでも?」
微塵たりともルーシを疑っていない口調であった。どのような苦難が訪れようと、ルーシならば解決してくれると信仰しているかのように。
「だいたい、ルーシ良く言ってたじゃん。いつか神とやらの首を獲り、全世界の宗教信者の目を覚まさせるってさぁ」
「まあな。だが、そううまくいかないものさ」
「いや、世の中の本質を付けば行ける」
「暴力ってか?」
「そう」
「限度があるだろう?」
「21世紀裏社会を征服する寸前まで行った男が、無茶だと思うとは感じないな」
ルーシは葉巻を咥え、煙を吐き出す。
そして最前から消えていた笑顔を灯し、答える。
「ああ……。そうかもな」
タイペイは表情をあまり変えないが、このときばかりは無邪気な破顔を見せた。
「さっすがー! んじゃ、計画発表と行こうか!」
ひとりの人間、ふたりの天使は、世界の根底を覆す計画を共有し合ったのだった。
*
「──つまり、クーアノンどもの頭領はジョーキーではないわけだ」
「そういうことだね~」
「しかし、表向きの最高指導者を消せば、ヤツらの動きは鈍化するはず。それを行うには──」
「ロスト・エンジェルス全域への『非常事態宣言』がベターじゃね?」
「だな。その間に愚民どもへ刷り込みを行おう。クール・レイノルズの存在を」
「うん。クールくんが大統領になるのが、一番良い選択肢だね~」
ルーシとタイペイは当然ではあるが、話を完全に理解した。
問題は途中からウイスキーを飲み始めたヘーラーだ。
「ポンコツ。誰が酒飲んで良いと言った?」
「だっておふたりの会話理解できないんですもん……。こんなことが可能ならば、私だって苦労しなかったんですよ? それに、うまく行くかだって分からないのに──」
ルーシは首を横に振り、彼女へ告げる。
「やってから後悔したほうが良いだろ? 悔いを残すために、異世界へ来たわけじゃないんだ」




