"仕方なく"耳を削ぎ落とす幼女
転生する前から、ルーシ・スターリングは恐るべき無法者だった。身体能力は格闘家にも負けないほどで、その力はそっくりそのまま幼女になっても引き継がれている。
「てめェ、私を舐めすぎなんだよ」
相手がなんらかの魔術を使う前には、決着がついていた。倒れ込む少年の首元にナイフを突きつけ、ルーシは彼に質問する。
「誰が空気入れた?」
「……答えるわけないじゃーん?」
頭を思い切り地面に叩きつけ、ルーシは同じことを聞き直す。
「誰が空気入れた、と聞いているんだ。早く答えろ」
「……まさか本気で殺す気じゃないよね? 人殺しのマフィアさん」
「そのまさかだ。どこまでが現実かをよく考えろ」
これで観念してくれれば良い。これ以上やってしまうと、面倒事になってしまう可能性のほうが高い。
だが、それでも少年は不敵な笑みをこぼす。
「この学園は実力と陰謀がすべてさ。アンタがどう考えても10歳の幼女でないように」
「……ああ、そうかよ。馬鹿ガキ」
こうなると、見せしめが必要だ。
仕方なく、ルーシは少年の耳をナイフでそぎ取った。悲鳴とともに、ぬいぐるみのごとく耳がもげていく。
その耳を放り投げ、その幼女は溜め息交じりに去っていく。
「ウィンストンのガキのビジネス……か」
当然、そんな美味しい話は継承していない。1にも2にもパーラを守るため、報復を済ませるためだけにルーシは挑んでいっただけだったからだ。
「しかしうまい話かもしれん。うまく割り込めるところを探してみるか」
もっとも、ルーシがそういう話を無視するわけがない。無法者として、10,000人の学生たち、基、10,000の金脈を逃すはずがないのだ。
「よォ、リヒト」
『どうした、社長ォ!?』
声の大きさにルーシは顔をしかめる。
「声がでけェよ。もうすこし声を潜めろ」
『それは無理な注文だぜェ! LTASはハッパ合法だからな!!』
「どうせ、入っていちゃいけない成分付きの違法使っているんだろ? オマエ、ジャンキー過ぎて普通のハッパじゃ効果ないだろうし」
ルーシはそんなリヒトに電話をかけ始めた。理由は明快だ。
「ところでオマエ、メイド・イン・ヘブン学園入る気ある?」
『マジ? MIH学園?』
「ああ。ひとりくらいねじ込むことできるしな」
『答えはひとつ!! 当然あるぜェ!! 目指せ桃源郷!!』
「アホで助かるよ。ただ、普通に入るわけじゃねェぞ? 詳しい話はあとでするが、MIH学園にあるチャンスを狙う。これはビジネスだ」
まん延しているビジネスがどんなものか分からず、きのう接触してきたセブン・スターズの言い草が正しければ、いつもどおり学校へ通っていられないかもしれない。そのため、代理要員としてリヒトを選んだだけの話だったりする。
『学生どもがクスリでも売ってるのかよ? 世も末だな! お、クールの大アニキ! これもくれるの!? あざす!!』
「クール、若者にドラッグ渡すのはやめろ」
『よォ、姉弟!!』
「ッたく、オマエもキマっているじゃねェか。ッたく、もう切るぞ。こちらは忙しいんだ。色々とな」
現状、学生の下剋上に関わっているほど時間は多くない。タイペイがこの世界にいられるのも20時間を切ったからだ。




