天然スケコマシ気質の少年(*)
「あっちのフィールドでやってるらしいぞ!!」
「やべえよな!! 次席に挑む1年生だぜ?」
アーク・ロイヤルは、ゲームセンターがやかましくなってきたことに眉をしかめる。この子たちは静かにゲームすることもできないのだろうか、と。
「おつかれちゃん。アーク」
「うん、おつかれアロマ」
アロマという少女がアークへエナジードリンクを差し出す。アークはそれを開けて飲み、思いの外味が悪くなかったので、「次の大会のスポンサー、このエナドリ出してるところにしようよ」と提案してみる。
「いやいや、オマエのお友だちのルーシが喧嘩してるらしいぞ?」
「ふーん」関心がなさそうだ。
「巷じゃ大盛りあがりだぜ? キャメルの派閥『フランマ・シスターズ』に入った、粋の良い1年生がルーシに喧嘩吹っかけたってよ」
「その子の心配したほうが良い」
「まあ、そうだけどさあ」
「ルーシだって馬鹿じゃないから殺したりはしない。でも正直、その子じゃルーシには絶対かなわない。となれば? プライドだけは一流の子はどうなっちゃう?」
「たぶんオマエが世話するんだろうな。そして惚れられると」
「まさか」口を尖らせる。
「天然ジゴロくんだろ? オマエは」
1番の親友はそう言ってアークをからかう。
確かにアークはこれまで様々な女子とデートに行き、手持ちのカネでは足りないと言っているのにバーに連れ込まれて、すぐ潰れ、起きたらホテルで結局1メニーも使っていない……という伝説を持っている。
「スケコマシ体質なんて良いことないよ。本当に」
ゲームオーバーの画面が出たレースゲームの席から立ち上がり、
「ちょっと、様子見に行こうか」
アークはアロマとともに、第2フィールドへ向かう。
*
「よォ。だいぶ苦しそうだが」
しっかり負けを認めさせ、それでいて良い試合をしたと見せかけるには、ルーシの必殺技『黒鷲の翼』や『銀鷲の翼』は使えない。単純に魔力をまとって彼女と殴り合いをしていた。もっとも、彼女のほうは全力でやっているため、中・遠距離から攻撃がやってくることもあったが。
「……はあ、はあ」
これがランクS。これが10000人を数えるMIH学園の次席。どうにもならない絶対の壁があるとしか思えない。
「これが最後の……」
球体の魔力の塊を彼女は持つ。バレーボールほどのサイズであり、投げればそれなりの距離を飛んでいくだろう。
「これで倒れないんなら……もうどうにもなんない」
球体より先に彼女が倒れ込んだ。ルーシはすこし怪訝そうな顔になる。
だが、次の瞬間には攻撃が始まった。
「なーるほど……」
ルーシの背中が光る。そしてちいさな幼女の体を覆い隠すほどの長さを誇る、銀鷲の翼が発生した。
「ナイフらしきものを数百個つくるわけだ。下手に直撃したら胴体ごと引き裂かれるな。ただし制御はできない、か」
すべて言い当て、ルーシは戦闘を終結させた。この前の海のときのように、カイザ・マギアを使ったのである。ルーシの魔力に慄いた少女は、その魔力をすべて奪われたのだった。




