後輩たちの野望
「ああ、分からんな。オマエらガキの考えるしょうもねェ青春とやらは」
「アンタなんて10歳児なんだから、分からなくて当然。本当はね」
そういうわけで舌戦状態だが、これでも仲は良い部類に入る。ルーシがメリットをからかって遊び、メリットが放っておけば良いのに突っかかる。愉快な関係だ。
「さて、陽キャのメリットちゃん。私やキャメルお姉ちゃんでも似合いそうなブランドショップは、見つかったかい?」
「あ……」
「忘れていたか。まあ、だろうな。覚えていそうな人間とも思えないな……」
ルーシは携帯を取り出し、『キャメル・レイノルズ』という相手に電話をかける寸前の場面を見せてくる。メリットの顔が青色に染まる頃、ルーシは、「冗談だよ。もうお姉ちゃんだって覚えちゃいないさ」メリットの肩を叩く。
「……寿命5年縮まった」
「そんなに怖いか? 喧嘩の腕は立つが、無差別にヒトへ危害加えるような方でもないぞ? 周りなんて、お姉ちゃんにひっついているだけの虫だしさ」
「……クソガキ」
メリットはぼーっと空を見上げる。だからルーシも真似してみる。
「違う。アンタ、派閥知らないの?」
「先ほど聞いたが、それがなにか関係あるの?」
「まあ良いや。私じゃないし」
メリットは4分の3も吸い終わっていないタバコを捨てて、足早に去っていった。ルーシは彼女を怪しむが、その理由は数秒後に弾き出された。
「おい、誰がキャメルちゃんにひっついてる雑魚だって?」
身長150センチのルーシの胸倉が掴まれた。地面から足が離れていく。彼女の身長が170センチほどで、ルーシの体重も低いから当然といえば当然だ。
「……ああ、なるほど。ウィンストンの外道の子分たちみてーな連中か」
「いっしょにしないでもらえるか?」
「いっしょだろ」
一色即発の事態だ。すでにルーシはナイフをスカートとシャツの間から取り出しており、そのまま耳を引きちぎるため、手を動かしている。
「顔面に魔力で硬化された拳食らったことあるか? ……クソガキ!!」
同時だった。ルーシのナイフが彼女の耳をややそぎ取り、同時にその幼女は容赦のない拳を顔に受ける。
「ッてェな。なに? 私とやり合うつもり?」
「こっちのセリフだ……。普通、ナイフなんて使うか?」
こうなれば喧嘩だ。ルーシも臨戦態勢に入ろうとする。
そんな中。
「なにしてるのよ!?」
怒号が飛んできた。この声は間違いなくキャメルだ。
隣にはメリットもいる。一応彼女なりに心配して……いや、喫煙している10歳の姪っ子を刮目させたかったのだろう。
「きゃ、キャメルちゃん……」
怯えている。どうやら、『派閥』とやらは苛烈な縦社会だ。ルーシの組織『スターリング工業』並みかもしれない。
「その子は私の姪っ子で、MIH学園の次席よ!? 貴方が勝てる相手だと思って!?」
「……いや、勝ちますよ。このまま舐められぱっなしで終わるわけにもいかないので」
話が想定外の方向へ進む。そんな彼女の根性に、銀髪の幼女は拍手で答える。
「良いねェ。先ほどは撤回するよ」
後輩たちの野望という導線に、火が灯る。




