持たざる者の集まり?
まさか持っていないとも思っていなさそうな雰囲気だが、実際ルーシがMIH学園へ入学してから5ヶ月ほど経過している以上、シエスタの発言が的外れというわけでもなさそうだ。
「そうだな、つくってみるか」
「マジで持ってなかったンかよ」
「なかったさ。学生どもの政治ごっこなんて意味ないからな」
「ルーちゃん! 私たちが派閥メンバーなんじゃないの?」
パーラが割り込む。彼女は続けた。
「ルーちゃん、私、メントちゃん、ホープちゃん、メリットちゃんでさ!」
「持たざる者の集まりってか?」
「え、なにを?」きょとんとしている。
「胸を」
10歳児であるルーシは除くにしても、それ以外は全員貧乳だ。メントに関しては絶壁とも言える。
「あー、確かに! でも、闘うんならちょうど良さそうじゃん!」
一応けなされたパーラだが、まるで気にしていない。それはホープも。もっとも、彼女の場合人酔いしているから言葉が届いていないだけかもしれないが。
「ヒトの少ねェところ行こうぜ。ホープが辛そうだ」
顔面蒼白状態のホープを見て、さしものルーシも気を遣わざるを得ない。
一行は学校内でひと気のすくない場所を探す。新校舎はあれだけ広かった旧校舎を上回る広さだ。大半の生徒はとてつもないカネを支払っているのだろう。
「学校内に公園なんてあるのかよ」
「ああ。サボるのにちょうど良い。ハッパ吸って怒鳴られてた馬鹿がいたくらい、リラックスできるぞ」
と、なれば、喫煙所があるはずだ。ルーシはマナーを守る喫煙者として眼光に火を灯す。
「ちょっと一服してくる」
時間にして4秒。そのときには、ルーシは屋外喫煙所へ歩みを進めていた。
「アイツ、タバコ吸うの?」
「そー! いくら言っても辞めないんだよ? 私の前じゃ絶対吸わないけどさ~」
パーラは不満げだった。獣娘は嗅覚が鋭い。副流煙が鼻について頭がクラクラするのだ。
「おれも吸ってたけどな。最近辞めた」
「……タバコとかお酒とか、嫌なこと思い出すから嫌い」
ホープはそう忌々しくつぶやいた。
「百害あって一利なしだからな。ま、そこでおしゃべりしてるか」
ルーシはソフトパッケージを振り、すでに茶色いフィルターのタバコを咥えている。あからさまに高そうなオイルライターを手慣れた動作で扱い、その銀髪の幼女は物憂げな表情で広々した喫煙所へ入っていく。
「よォ」
「出た」
そこにいないほうがおかしな話だ。メリットがタトゥーを見せびらかしながら1ミリタバコを吸っていた。
「蜘蛛とドクロに秘密結社みてーな目? どうせ胴体にも入っているんだろう?」
「もちろん」
「ちゃんと旧魔術教えてくれたから負債はチャラにしてやるが、オマエそれで良かったのか?」
「なにが?」
「キャメルだったら根掘り葉掘り訊いてくると思うから」
「……確かに。悪いヒトではないと思うけど」
「周りにいるヤツらが怖ェーんだろ? オマエみてーな爪弾き者でもスクールカーストが通用するなんて、ずいぶん笑える冗談だぜ」
「10歳には分かんないでしょ」




