その人殺しは、子どものときのように
ただ、溺れているわけにもいかない。
アークとキャメルは天へ手をかざして魔力を放射し、無理やりその塊を分解させた。
あの幼女は頭に血が昇ってやったのだろう。その証拠に、ルーシの魔力は感じ取れなくなった。
「これで良いでしょ!! さあ、私をなじって!!」
(うわあ。恥の概念捨てたよ。プライドより性欲のほうが強いんだ。なんだかなぁ)
「……ルーシが無事かだけ見てくる。良い子にしててね。ぼくの飲み物に媚薬入れないように」
そんなわけで、気絶したルーシをアークは救いに行く。
倒れるルーシ。銀鷲の羽が舞っていて、それが『クーアノン』の連中の脚を刺したのか、彼らはうめき声をあげながらもぞもぞ動いていた。
「ルーシ、起きて」
手のひらにふれる。ちいさな幼女の手は、当然ながら柔らかい。
そして手と手を取り合うということは、アークの魔力がルーシに分配されるわけだ。ルーシは魔力がないと意識を保てない。なにか事故にあったらしい。
「起きないなあ。寝てるフリでしょ、これ」
アークは一計を案じた。
「離れたところでキャメルのお尻叩く光景見てて良いよ」
「マジか」
ばっ、とルーシが目を覚ます。だからこのふたりはずるい。
「ああ、アイツらは避難しちまったか。ちょっと話しながら歩こうぜ」
ルーシは何事もなかったように立ち上がり、指をくるくる回して、無数の羽を槍のごとく変形させて『クーアノン』の彼らのアキレス腱を切断した。
この世のものとは思えない悲鳴とともに、ルーシは先に歩きだして、「早く来いよ。お姉ちゃんは放置プレイでも喜ぶぞ?」と冗談とも思えない話を口ずさむ。
「ゴールデンバットって野郎から話は聞いているんだろ? オマエとキャメルは」
「うん。学校へはあまり顔出せなくなるかもね」
「時間は有限だ。私はいま1分でも惜しい状態なんだよ。キャメルに彼女が思いつく限り下品な────、させたビデオくれ。結構見てみたい」
「脅す用に使うの?」
「使わねェよ。お姉ちゃんだぞ?」
「悪趣味だなあ。パーラが同じ目にあったらどうするの?」
「やった男のムスコをちぎって、ケツの穴に打ち込んだあと食レポさせるかな」
「だったら同じことそっくり返す。そんなもの撮らせるつもりは毛頭ない」
「意外だな」きょとんとしていた。
「あれでもガールフレンドです。中学生のときは、付き合えたら死んでも良いと思ってました」
そんな話を交わしつつ、キャメルを眼中に捉えたふたりは、拳をあわせる。
「またな。オマエは愉快なヤツだ。心の底からな」
「愉快さよりも常識がほしいね、君には」
「努力するよ」
ルーシは携帯電話を取り出し、パーラへ電話をかける。
「なあ、悪かった。全部私が悪いことに気がついたから、全部解決しようと焦ったんだ」
『ルーちゃん無事なの!? あの大暴風の中で!?』
「もちろん。愛と平和の守護神だしな」
『なら良いよ! 私も海あんまり好きじゃないし、あのヒトたち怖かったし! あ、でも、他の子たちにはちゃんと謝ってね? みんなルーちゃんのこと好きだけど、それとこれは別だから!』
(みんなおれのことが好き? ……人殺しでも1度死んでしまえば、また子どものときのようにヒトから好かれるんだな)
ルーシ・スターリング。前世における総殺人数24860人。21世紀初頭を代表する怪物。
そんな少年が異世界転生したら、なぜか幼女になってしまい、不思議なことにいろんなヒトから好かれるようになってしまった。そんな話。
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