イカれた老人の偏執から始まる陰謀劇
「魔術師は世界を腐敗させ、白人の持つ文明を崩壊させる!! 我々は神に選ばれた最高の種族だが、劣等たる黄色人種や黒人は我々を恐れて支配しようとしている!! ならばこれは防衛戦争だ!!」
ルーシはぼそっと、「そういやタイペイとリヒトはアジア系だな」とつぶやく。意識しなさすぎて忘れていた。
そんなわけで、かかったら変な疫病になりそうなツバを撒き散らす『クーアノン』と、メント・リヒト・タイペイの三人は向き合っていた。
というか、ナイフやら拳銃を持ち出していて危ない。魔術で対抗できるメントも、その支離滅裂な理論もどきにたじろいでいて、脳が硬直している様子だ。
だからルーシは姿を現す。
「おい、オマエらの狙いはランクSの私だろ? 自らに対する全権委任法を公約にしているジョーキー氏も、私の首持って帰れば喜ぶと思うぞ?」
殺気が煮え切る。ルーシは不敵に笑う。
「メント、殺さねェ程度にぶっ放せ。私だけじゃ人手不足だ」
思考が停止していたメントも、ルーシの喜々とした声色に目を覚ます。
「了解。ランクAの実力、いま見せてやる」
所詮、魔術師でない連中だ。スキルを使えるのならば魔術を否定できない。わざわざ体力を割く必要性も感じない。
ルーシは背中に銀鷲の翼を発生させ、メントは空中から矢印の形をした爆発力を持つ魔力を発射する。
闘いというより虐殺、虐殺というよりは自己防衛。
「ご……はぁ……!?」
一瞬で終わった。暖簾を押す感覚だ。
それが故、ルーシは眉間にシワを寄せる。
ロスト・エンジェルス最高峰の魔術学園メイド・イン・ヘブンに属す最優秀生徒ふたり相手に、なんの対策も練らずに銃とナイフだけで殺せるとでも思っていたのか? という疑念が浮かんでくる。
「たいしたことねえって次元超えてるけど、コイツらなにがしたいんだ?」
メントも同様の感想を抱いた。彼らの狙いは学生魔術師の上位に立つメントのはず。その副産物としてルーシも現れたが、それにしても無計画すぎる。
「……いや、ホーミー」
その違和感の正体に気がついたのは、リヒトだった。死なない程度に殴打された彼らは、薄れゆく意識の中、懐から注射器を取り出したのだ。
「うん、やべえもの持ってるみたい」タイペイは気の抜けた態度だ。
スターリング工業のプレジデントルーシはリヒトと顔を合わせる。そして互いに思うのだ。やらかしてしまったと。
「強心剤か……」
「強心剤?」パーラが不安げに訊いてくる。
「ああ、巷で流行っているんだ。使えば向こう数ヶ月動けねェが、使えば腕力のみで高層ビルすら破壊する麻薬だよ……」
ルーシは顔を手で覆った。この麻薬、スターリング工業が製造したものなのだ。
大陸の戦争で使うからと、ロスト・エンジェルスの軍事産業のドンである男『ジョーキー』に依頼されてつくった代物。
「あの偏執病のボケジジイ、最初からこれが狙いかよ……!!」




