陰謀は問題の母
「意味合いが違うのさ。アイツは粋がり。私のは……想いが積もっている」
数え切れないほど殺したが、数え切れないほど死んだ。これからだって大勢死んでいく。それが故、ルーシの刺青は自分が自分であるため必要なのだ。
「んでさ~、私もタトゥー入れたいんだよね!」
華麗に話をすげ替えられたが、深掘りされても困るので、ルーシは、「良いんじゃねェか?」と賛同した。
「どんなのが似合うかな?」
「何個か候補あるんだろ? それ見てひとつおすすめするよ」
「んー。私がビビッときたのはひとつだけなんだよね」
「どれだい?」
「これ!」
龍と桜、虎などが腕に彫られた写真を見せられた。和彫りである。
なぜ18世紀末期の欧州に日本文化があるのか、という疑問へは転生者がいるからであると返答されている。
「良いじゃねェか。西洋の和彫りだな」
「西洋?」
「帝ノ国や龍帝大国くらい知っているだろ? あれが東洋で、東洋の文明だ」
「よく分かんない……」
「良いところだよ。昔行ったことがあるんだ」
前世日本で死んだルーシは、彼の国の文明を気に入っている。西洋社会で過ごしてきた者として、その光景は、あまりにも鮮明で、華麗なものであった。
「ルーちゃんが言うんなら間違いない! これ彫る!」
「タトゥースタジオ寄って帰るか。でもまあ、そう簡単には消えねェからよく考えるように」
「分かった! ところでメントちゃんとリヒトくん、タイペイちゃんは?」
「泳いでいるんじゃねェか? 海なんて嫌いだから分からねェ」
そう言われてみれば、タイペイたちの姿が見えない。なにやら揉め事でも起きているのだろうか。
「アイツら、面倒事起こすのが得意だからな。ちょっと探すか」
メントにリヒト、そしてタイペイ。今頃誰かを殴打していてもおかしくない。特にメントは結構短気だから、その可能性が高まる。
「どこ行ったんだろうね?」
「飯でも食っているのかね。しかし、それなら私たちを誘うはずだし」
ここで、ルーシはなんてことない話を思い出す。
「メント、ランクAに昇格したんだっけ」
「うん! めっちゃ喜んでて、調子乗ってお酒飲んで次の日死んでた!」
「ああ、つまりそういうことか」
「どういうこと?」
「クーアノンって連中が流行っているだろう? アイツら、MIH学園の有力生徒にちょっかいかましているらしい」
なにせルーシとアークに突撃するような無謀極まりない連中だ。MIH学園の上位に立つ魔術師のメントを見つけたら、意味不明な陰謀論とともに喧嘩をふっかけるに決まっている。
「裏側だな」
ひと気のすくない、岩の裏側に向かう。行く宛がないようにパーラは感じているだろうが、ルーシにはしっかり見当がついている。
「ほら見ろ」
こちらには気がつけない距離間で、ふたりは絡まれるメントとリヒト、タイペイを見つける。
「愛と平和の守護神として見過ごせねェな」
銀髪碧眼の幼女は、指をパキパキ鳴らして、長くなった髪をさらりとすくい上げた。




