"セブン・スターズ"ゴールデンバット
「オマエ、クールさんの娘だな?」
後ろ側から男の声が聞こえた。敵性ではなさそうだ。ルーシは猫をかぶらずいつもの調子で、「そうだ。父親のサインがほしいのか?」と冗談交じりで答える。
「悪リィが、おれはジョンさんのほうが好きだ」
「ジョン? ああ、父のライバルか」
ルーシは振り返る。
さすがに見上げるほどの身長差はある。先端が紫で他は黒い、左半分を刈り上げた髪型。おそらく東アジア人系だが、白人の血も入っているのであろう肌と顔つき。
「はじめまして。セブン・スターズのゴールデンバットだ」
ロスト・エンジェルス最強の魔術師たち、セブン・スターズのひとりだと名乗り、周りの反応からそれが事実であることをルーシは知る。
「セブン・スターズが呑気にバカンスか? クーアノンとかいう白痴どもをどうにかしろよ。私の知る限り、殺人事件も起きているはずだが?」
「それを解決するために来たんだよ、ランク・セブン・スターズ」
ルーシの学校MIH学園での最優秀生徒に送られる称号『ランクS』。ランクSと略したのは最近の話らしく、20代後半以上に言わせれば、これらは『ランク・セブン・スターズ』なのだという。
「どこから情報を拾った?」
「嬢ちゃんの恋人、インフルエンサーなんだぞ? トレンダーのフォロワーが90万人超えてる。人口750万人の国でな」
「ああクソ、これだからSNSの時代は嫌いだ」
居場所が掴まれたところで、いまのルーシは罪なき一般市民なので捕まることはない。だが、追跡されて良い気分になる者もいない。
「ただ、ちょっとインターネットの使い方教えたほうが良いぞ? これ見てりゃクールさんに娘ができたのが分かっちまうし。あと、主席の子はせめて鍵アカウントにすれば良いのに」
MIH学園主席キャメルのつぶやきを見る。この御方は自分がそれなりに有名人であることを知らないのだろうか。素人でも居場所が分かってしまう写真に、位置情報までご丁寧についている。
「まあ、からくりは分かっただろ? きょうはオマエらに提案がある」
「学生は学業が本職だぞ?」
「ランク・セブン・スターズの本業はLTAS最強の魔術師の候補生だよ」
ゴールデンバットは平然とそう答えた。
「別におれらが横着してるわけじゃない。人手が足らんのだよ」
「7人いるんだろう? 軍集団並みのヤツらが」
「一枚岩ではないんだよ。もうすでに陰謀論へ染まっちまった同僚がいるくらいだ」
「慰めるヤツはもういねェか」
「ともかく、学徒動員だ。オマエはあのふたりと違う雰囲気があるから個別に声がけしたが、キャメルとアークにも伝えておくからな? ゴーサイン出たら動けるように準備しとけな」
「ああ、そうかい……」
ゴールデンバットは去り際手をあげる。それに対してルーシは中指を突き立て、溜め息混じりにパーラたちの場所へ向かっていく。
「くたばれ、狗どもが。猫のほうが可愛いぜ」
そう感じたのは、おそらく恋人が猫との獣娘だからか。
当然だが、獣娘なんて彼女以外に抱いたことないな、と経験人数では推し量れないものもあるのだと、再認識するのだった。




