ガールフレンド
「懐かしいな……。まだ駆け出しだった頃の話じゃねェか。その話知っているの、もはやオマエだけだぞ? 他はみんな死んじまった」
「安らかに眠れ、我が友邦ってタトゥーまだ残ってるの?」
「ああ、背中にばっちり入っている」
幼女と化したルーシは、唯一前世からタトゥーだけは引き継いでいた。これがなければ、そもそも前世を疑っていたかもしれない。
「キリル文字なんて読めないしね。ここのヒトたち」
「ああ、アホ天使に感謝だ。魂の器にすぎない肉体でも、どうせなら生きていた証明があったほうが良い」
そんな会話を交わし、ルーシはパーラとメントへ電話をかける。
「やあ、元気?」
『……オマエ、パーラとの約束すっぽかしてその態度かよ』
見た目通り口も悪い少女メントは、悪びれているように感じないルーシを咎める。
「私だって引け目感じているんだ。だからオマエにかけたんだぞ?」
『パーラ、すこし落ち込んでたぞ? 約束無視されたの、初めてだって』
「言い訳はしないよ。こちらが100パーセント悪い」
『嫌なヤツだなぁ、オマエって』
「オマエに嫌なヤツだと思われて損はないぞ、メント。パーラは出られるのか?」
『もう行ける。ちゃんと謝れよ?』
「了解、そちらへ向かう。超特急使って行くぞ」
面倒見の良い姉御器質。メントはそういう人間だ。その一面ではキャメルと一致しており、それでも険悪なのが面白い話である。
「ガキっておもしれェな」
「私に言ってる?」
「違うよ。同級生のことだ」
「さっきの子? 普通の子なんじゃないの、あれが」
「どうだか。おれもオマエも小学校すら出ていねェからな」
「コンプレックスを感じるお方じゃないでしょ? ルーシは」
「いや……地続きに物事が運ばれているのなら……」
「あのとき、無法者にもならなかったと?」
「そういうことだ」
「くだらないね」
タイペイの態度は一刀両断だった。ルーシの感傷を一太刀で打ち切ってしまったのだ。
「いまを大切にしなよ。正直、私がここにいられる時間は延長できないと思う。うまく行っても定期的に訪れることをできるかどうか。だからさ、過去なんて捨てていまを生きて。なんのためにロスト・エンジェルスへ来たのさ?」
「そりゃあ、暴れるためだろ」
最初から最後までその主張は変わらない。裁かれるときまで、裁かれているときだって、決して意見は捻じ曲げない。
「だろうね。ルーシならそう答えるだろうし、そう答えるべきだよ」
しかし、タイペイは意味深長だった。
「なにか裏がありそうな言い方だな──」
タイペイは無言で左側を指差す。
そこには、パーラとメント、なぜかリヒトがいた。
その髪を金色に染めている猫との獣娘は、ルーシを見て手を振る。
「ルーちゃん! 久しぶり!!」
怒っている様子はなかった。悲しげな表情も読み取れない。いつもどおり楽しそうな顔色だ。
「ああ、久しぶり。パーラ」
駆け寄ってくるパーラをルーシは抱きしめ、ふたりはこの関係が永久に続くよう祈る。神も居ないこの国で。




