風呂屋に沈めないと分からなそうなお姉ちゃん
そう思ったルーシ。表情こそ笑顔だが、草食動物を食い散らかすときのような目つきのキャメル。
こんなヤツの隣を歩きたくない。こちらまでアバズレビッチだと思われる。
そういう拒絶反応が、ルーシの頬に汗となって伝った。
「……どうしたの? 体調が悪そうだわ」
キャメルは自分がなにも間違っていないかのように、ルーシを心配してくる。そのマイクロビキニが、この世界に存在しない胸を見せびらかす需要なき格好が、いったいどうやってアークに届くと考えたか。
「…………アークに連絡しておきますね。その気合が入っている水着の写真、彼に送りますよ」
(この嫌味で気がついてくれ。ある意味純情でやっているヤツに直接、『似合っていないですよ、お姉ちゃん~』なんて笑顔で言えねェよ)
「そ、そう? 似合ってるかしら? だったらアークに写真送ってあげて」
(なに額面通り捉えているんだよ!? なんでオマエはそんなに純粋なんだ!? 風呂屋に沈めねェと分からねェのか!?)
照れているキャメルに微笑みを浮かべながら写真を撮り、ルーシは彼女の意中アーク・ロイヤルにメッセージを送る。
《海行くぞ》
メッセージが返ってくる。ちなみに写真も送信済みだ。
〈キャメルってずるいよね〉
《行くのか?》
〈行かなきゃ君が困るでしょ?〉
《眠たいヤツで助かる》
〈サウスのほうでしょ? ゲーム大会終わったから先に待機してる〉
《了解》
この間、ルーシは何度かキャメルの表情を横目で観察していた。もうすこし楽しそうな顔すれば良いのに、としか思えない、狩人がそこにいた。
「アーク、いまサウス・ロスト・エンジェルスにいるらしいです。先に向かっていると」
「良かったわ。そう、本当に。パーラと……あの女と他ふたりよね?」
恋敵ことメントの名前を伏せやがった。ここは同調し、「そうです」と返事する。
「正直、私がそこにいても仕方ないわね。まあ、会ってしまったら、たまたまってことにしておきましょう。……そう、こっちは幼なじみなのよ」
見せつけたいのはよく分かるが、それをルーシに伝えてしまうところが、まだ子どもっぽくてかわいいところかもしれない。そんなことをぼんやり浮かべて、「水着、貸してください。あまり露出しないものが良いです」と目的に移る。
「露出はすくないほうが良いかしら?」
「そうですね」
「本当に?」
「本当に」
2回も念押しする理由など聞きたくもない。
「なら……これね」水着入れを渡してきた。
「ありがとうございます。では、ごきげんよう」
ルーシは頭を下げ、この監視社会の果てから確実に出ていく。
離れたところでタバコを取り出し、悩ましい溜め息をついて、火をつけようとした瞬間だった。
「相変わらず赤マル吸ってるんだね」
「よォ、タイペイ」
そのタバコに、どこからか現れたタイペイが火を灯す。
「私とリヒトくん、ルーシとその友だちふたりだよね?」
「ああ。不満か?」
「ルーシ泳げないから、昔仕事で溺れてたのを思い出す。あのとき私がいなかったら、ルーシ溺死してたんだよ?」




