存在が公然わいせつ
「しっかりしないヤツには相応の態度なんだよ、わた──おれは。ごほん。さて、おれはキャメルって姉貴分に水着借りてくる」
「ひとりじゃ寂しいぜ」
「すぐ戻ってくる。おれだって……私だって、ひとりは寂しいよ」
軽い冗談が地雷に触れてしまったかもしれない、と申し訳無さそうな顔になったリヒト。タイペイと離れ離れになって、リヒトたちも途中でいなくなり、ルーシなりに思うことは多かったはずだ。
「でも、もういなくならねェよ、社長」
「分かっているさ。愉快なリヒト」
背中越しから表情は伝わってこなかった。
*
「はい、そうです。メントとパーラ、そして他の友だちと海へ行きたくて、水着を貸していただけないかと」
この見た目では運転などできない。捕まったら色々と面倒だ。だからルーシは、タクシーでキャメルの邸宅へ向かっていた。
「……他のヒトたちが信用できないと? 遠くから見届ける? んー……ならアークを誘ってみたらどうですか? 私も手伝いますよ」
当然といえば当然かもしれない。学校内で黒い噂がはびこるルーシを、キャメルのような姉御肌の者が心配しないはずがない。彼女は着いていって監視すると言ってきた。
そのため、ルーシはカウンターとしてアークの名を出す。
キャメルがしばし押し黙る。だが、断念するだろうと高をくくっていたルーシに反撃を繰り出す。
「……アークとデートする? お姉ちゃん正気ですか?」
『正気よ。子どもの頃、ふたりだけで遊んだもの。親の目を盗んでね。いまになってそれをやるのも良いじゃない』
高校生になった現在、それをやる理由がなにひとつとして思い浮かばないルーシは、結局自身が小卒未満の身であることを痛感させられた。
……もっとも、これは彼女の杜撰な言い訳だが。
「そうですか……。だったらアークに連絡取ってみますね。もうすぐそちらへ着くので、電話切ります。ごきげんよう」
「お嬢ちゃん、なんか苦労絶えなさそうな顔してるねえ」
タクシーの運転手がそんなことを言ってきた。
「苦労に好かれるのは、いまから会うヒトのボーイフレンドですよ……」
運転手は色々察したのか、「ははッ……」と乾いた笑い声を飛ばすだけだった。
それから2分後。キャメルの家についた。
「カードで」
「ほい、72メニーです」
リーダーにクレジットカードを挿し、ルーシは会計を済ませて広大な家の庭を歩いていく。
「来たのは2回目だが、クールが逃げたくなるのもよく分かるぜ」
あらゆる場所にカメラとヒトが配置されている。警備員はあからさまだが、庭師やメイド、執事らしき人物たちも、戦闘慣れしていそうだ。すなわち、窮屈な雰囲気が豪邸を包んでいる。あの自由奔放な人間にはまったく似合わない場所である。
そんななか、キャメルがいた。すでに水着を着ており、上にパーカーを羽織っている。
(どう考えても寒みィだろその格好!? 具体的にどの部分をカバーしているんだよ!? 存在が公然わいせつだろうが!!)




