"絶壁三白眼で男日照りの高校2年生"
どうせならば、学生らしいことをしたい。日本円換算で1000万円のアクセサリーを買って、亡命してきたガリア貴族お抱えのシェフたちのディナーを食べた後、ホテルインするような遊び方しかしてこなかったからだ。
「海しかねェぞ社長ォ!! 夏休みに海行かねェでどうする!!」
「泳げねェんだよ、おれは」
「あ……悪りィ」リヒトは素直に謝る。
「だがまあ良案だ。南街のほうにあるんだよな? 魔術かなにかで常時暖かいリゾートが」
「そうだぜ社長ォ!! あそこは最高だ!! タダで水着姿の姉ちゃんたちが見られるんだぜ!?」
「水着か。もっていねェな」
「なら現地で買っちまえば? 売ってたぞ、確か」
「幼児用の水着を着るなんて屈辱だぜ。あ、そうだ。こういうときこそ、頼れる姉貴分がいるじゃねェか」
「姉貴分? ちっこいんだな、その子」
幼女であるルーシよりすこしだけ身長の低い少女、キャメル・レイノルズ。体型もさほど変わらないし、彼女ならばあからさまな幼児ものは持っていないだろう。
「しかし目的はパーラとタイペイと遊ぶことだ。貸すだけで納得するのか、お姉ちゃんは」
メッセージを打ち終えて送信する寸前、ルーシは指を止める。
おそらくついてくる。というか、ついてくるほうが正常だ。ルーシとパーラが海に行くといえば、彼女が心配しないわけがない。10歳児とオツムがよろしくない(と思われているであろう)高校生。他はリヒトとタイペイというよく分からないヤツら。
だからルーシは、もうひとり誘うことを考える。保護者枠として。
「なあ、リヒト」
「なんだ?」
「絶壁三白眼で男日照りの高校2年生って、保護者できると思う?」
「んん? もうすこし詳しく教えてくれよ。おっぱいなくて目つき悪い、それで彼氏ほしい子? それだけじゃ分かんねェよ」
「そりゃそうだな。まあ、そういうヤツが来る。男がほしいな」
「このリヒトが男じゃねェみてーな言い方だな、社長ォ!!」
「女だらけなのも難儀だぞ? そうだな……男で恋人がいねェヤツ……意外と出てこねェ」
寂しい高校生活を過ごす女子が多い学校である。まったく感じたこともなかったが、ルーシの学校MIH学園の男女比は極端だ。男子率が2割ほど。残りは女子。
それが故、「彼女たちも少ないパイを奪い合っているんだな」と女性目線に立って、女になってしまったルーシはつぶやく。
「MIH学園楽しそうだなあ……。桃源郷じゃん。おれァ学校嫌いだけど、女の子は大好きだし」
「やめておけ。裏社会の女よりクレイジーなヤツらの博覧会だぞ?」
「たかが高校生だろ? 粋がってタバコでも覚える年頃だし、裏の怖ェ兄ちゃんたちとは比べ物になんねェよ~」
「そうかい。なら、男オマエだけな」
「よっしゃあ!! その三白眼の子口説いちゃうんだからね!!」
「好きにしろ。アイツにも選ぶ権利くらいある。つか、マーベリックどこ行った?」
「仕事じゃね? マーベリックちゃん、連邦情報局の仕事バリ辛れェって言ってたからなあ」
「マフィアやりつつ保安官を副業にすることより、この国を象徴する者もいないな。オマエも女子高生の尻に欲情していないで、面白い仕事取ってこいよ」
「女の子になっても当たり強ェな! 社長ォ!」




