無法者と学校
結局、どうやったらタイペイがこの世界に残留できるか聞けなかったし、ルーシは酒を飲み始めたてのときのごとく、口を開けながら呆然とベランダに立っていた。
「社長が酔っ払うなんて珍しいな」
隣にはリヒト。彼はタバコを吸わないので、ただルーシが心配になってやってきた。
「内蔵が縮小しているんだろうな……。ショット30杯くらいで気分悪くなるなんてよ」
「30杯も飲んだら急性アルコール中毒だ」リヒトは笑う。
「というか、オマエらなんでおれの正体が分かった? こんな見た目で判別つかねェだろうに」
「マーベリックちゃんの情報だよ。アイツ、いま連邦保安に入隊してるんだ」
「ルーシという名前でルーシの真似事をする人間は……ルーシだけか。それがたとえ幼女であろうとも」
「目つきもあのときのまんまだったし。かっけェ頃の社長の目だったよ」
そんなわけでふたりは空が明けるのを眺める。リヒトは楽しそうだが、ルーシからすれば気分の悪さで太陽すら恨みたくなる。
「あ」
そして、その幼女は間の抜けた声を出した。
「なにか問題が?」
「ガールフレンドとの約束を忘れていた」
「ガールフレンド? 社長彼女いるの?」
「そりゃいるだろ。生きていれば」
「おれにはいねェし、ソイツが大したロリコンだってことは分かる」
「見た目じゃ推し量れないものもあるのさ」
そう言いながら、ルーシは携帯電話を見る。
メッセージ15件。最後には「またあした!」とあったので、怒っているのか寝ているとでも思ったのか分からない。
「またあした? あしたもアイツ補習じゃねェのか?」
「なあなあ、どういう女の子?」
「ほら」
ふたりで撮ったセルフィーを見せる。リヒトはニコニコ笑いながら、「かわいいじゃん!!」と自分のことのように喜ぶ。
「……そうだ。あしたから学校だ。だから帰ってきたんだった」
取得している授業によって登校開始日は変わってくるが、ルーシとその恋人パーラは同じ日に合わせて適当な授業を仕組んでいた。
その幼女は首を横に振る。
「……まともに恋愛したの、これが初めてなんだよなあ」
「社長、やり捨てポイで街汚してたもんな」
弁明できるかは知らないが、多少心が痛むのも事実。親が死ねば生きていけないと子ども共々射殺してしまう無法者には、妙なところで美徳がある。
「だいたい、社長学校行くの?」
「行くしかねェだろ」
「おれはともかく、タイペイはもう40時間くらいしかいられねェぞ?」
「だったらおめェらも行くか。MIH学園へ」
ルーシはそんなことを口にした。リヒトはそんなルーシにニコニコしながら、答える。
「学校、嫌いなんだよね~。おれ。まあ、社長がどうしても、って言うんなら行くけどさ」
「無理強いしないよ。そういえばおめェ、中卒だもんなぁ」
だからといってタイペイとの時間を無駄にはしたくない。
そのため、ルーシは無言で寝ているであろうパーラにメッセージを打つ。
「学校サボって遊び行くか。リヒト、ロスト・エンジェルスで良い感じの遊べる場所知っている?」




