魔術は科学であって科学は魔術である
死ねば無になる、という概念が人間の妄想で、死んでもなお次の世界があるというのもある種の空想。いずれにせよ、ルーシがいまここにいて、タイペイもまたいるのであれば、輪廻転生とやらも信じられる話だ。
ルーシはグラスにテキーラを注ぎ、三つ目の質問をする。
「オマエらが暇なのは分かった。だったら三つ目だ。タイペイ、オマエどうすればここに残れる? あのポンコツは残っているんだから、オマエだって残れるはずだ。このだらけた浮世の世界に」
その髪色がやや焦げている少女は、すっかり酔っ払っていたようだ。眠そうなまなこで答えた。
「眠みいから、これ言ったら寝るよ」
「ああ」
「宇宙を超えた先にある世界、天界には階級制度が設けられてるんだ」
「階級ねえ」
「肩書きがない天使は平社員みたいなもので、その次が大天使。その天使たちをまとめる課長みたいな? んで、私は守護天使。部長みたいな立ち位置だね。部内をまとめる存在として、やることがなくても天界に居続けなければならない」
「世知辛い話だなぁ……」
ショットを飲み干す。この身体になってから、酒がだいぶ弱くなった。そろそろ辞め時なのかもしれない。
「うん。だからま、クールくんのアイデアは冴えてた。平社員のやらかしは上司が尻拭いするから、ヘーラーは私を呼べるわけだね。人間界時間換算で、うん、48時間は」
「アイツがなにかやらかした? 酒飲み潰ればかりだが」
「そもそも酒飲んじゃいけないんだよ、天使は」
「オマエ飲んでいるじゃねェか」シンプルにツッコむ。
「罰則受けるほど身分低くないから、私は別だよ。それになにも罰を与えることが目的じゃない。アルコールを分解する器官が弱くなるから、飲むことはまったくメリットにならない」
「退化するのかよ?」ルーシは半笑いだ。
「魔力の流れが逆転しちゃうからね」
「あ? どういう意味だよ」
「大前提として、魔力は人間の思い込みで生じる。科学と魔術ってもともとは同じものって言うでしょ? んで、人間界はそのどちらかを選んで技術が発展してくんだ。ルーシの前世いた日本が科学を選んで超能力を人間に埋め込んだように、ルーシがいまいるロスト・エンジェルスが魔術を選んで魔力を身体に開発したように」
タイペイはうとうとしながら、ルーシの肩に寄りかかってくる。口調もおぼろげだ。
しかしここまで聞いておいて続きはあした、というのも悶々としているので、ルーシはタイペイの頬をつねる。
「痛いなあ」
「まだ寝るなよ。気になるところでコマーシャルは通用しねェぞ?」
「別に面白い話でもないよ。要するに、魔術は科学であって科学は魔術であるってだけ。それなのにこの国はその話になぜか中立的で、科学が勝った世界から転生者を受け入れてる。私も一兵卒だったとき、わざわざ営業かけてくるここのお偉方のために有能な死亡者を転生させてたし。んじゃ、おやすみ」
「聞けば聞くほど謎だらけになるぞ? ロスト・エンジェルスのお偉方が営業するのかよ」
その質問には答えず、タイペイはルーシの肩の上に顔を乗せて眠り始めた。




