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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
レールの切り替わる音がした

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01

「テメェの大好きな妹の就職先だ」


 その男……田町は悪びれることなく、楓との関係を言い切った。


「就職……先?」


 就職先。


 女が男のもとに就職する。それはまさに、男女の関係を通り過ぎた先にある、一つのゴール。その比喩表現によく使われるものだ。


 思わぬ言葉に呆気に取られながらも、すぐに腸が煮えくり返った。


「そう、就職先。レナのことは、自宅警備員として正規雇用している」


「自宅、警備員……?」


 顔まで込み上がってきた熱に、冷水を浴びせかけられた。


 結婚しているとか、夫婦とか、楓との関係をそう当てはめたのかと思ったら、明後日の方向から頓珍漢な言葉がやってきたのだ。


 その意味を解読しようとするも、すぐに止めた。諦めたのではなく、今の言葉に他の謎を見出したからだ。


「レナ?」


 人名なのは察したが、なぜここでは関係のない名が上がったのか。


 先程から続けて疑問だらけ。意気込んでいたこちらのペースが、すっかり狂わされている。


「なんだ、レナのことを知らんのか?」


 田町は無知を嘲笑うように言った。


「人の不幸で飯が美味い! だから不幸を作るんだ! そうやって人の不幸から蜜を吸い出し、射幸心をドバらす嗜虐心の塊! 道行く人々をナチュラルにゴミ扱いする、陽キャを断罪する剣、一閃十界のレナファルトをご存じないと!?」


 勢いよくまくし立てる田町。それはまるで物語の登場人物を説明するかのようであり、今この場において、あまりにも似つかわしくなかった。


「あんた……ふざけてるの?」


 奥歯を噛みしめながら、田町を睨めつけた。


 私はこんなふざけた発言を拝聴しに来たのではない。そんなふざけた真似をして、話を逸らせると思っているのかと。


「あ? ふざけてねーよ」


 田町の軽薄な雰囲気は一変した。


「大好きな妹のことをなにも知らないテメェを、バカにしてるんだよ」


 鼻で笑いながら、侮蔑を吐き出したのだ。


 話は一切逸れてはいない。最初から本題に入っていた。


 田町がレナと呼ぶのは、楓のことだったのだ。


 なんでそんな名前をと思ったが、すぐに思い至った。楓は引きこもって以来、ずっとネットの世界にこもっていた。だから、ハンドルネーム、というものを使っているのだ。


 それが、一閃十界のレナファルト。私の知る楓からは、まるで想像つかない名付けである。


「……自分がどんな立場か、わかってるの?」


 蔑まされた私は、突かれた痛いところを逸らしながら凄んだ。


 ファーストコンタクトにおける先制攻撃。それに動揺し、すっかりペースを崩されたが、大義はこちらにある。社会を味方につけられるからこそ、喉元は掴んでいるのはこちらである。


「テメェこそ、自分の立場がわかってないようだな」


 だというのに、田町はまるで恐れない。それどころか、喉元を掴まれているのも知らない私を、小馬鹿にまでしている。


「もし俺になにかあってみろ。テメェの大事なものから、壊れていくからな。例えば……」


 田町の視線は私から逸れ、


「大切なお友達とかな」


 まどかに標準を合わせたのだった。


「あ……」


 ビクリと、まどかが震えた。


 今この手に拳銃が握られていたら、衝動的に引き金を引いただろう。まどかとはまた違う震えが、この身体を襲っていた。


「あんた、まどかを……!」


 なにかあったとき、まどかに手を出すという怒りではない。その想いを知ってか知らずか、本人の前で平気で傷つけると発言したのが許せなかった。


「あ? テメェ相手ならともかく、こんな底辺社会人に優しいクルミちゃんに、酷い真似するわけねーだろ」


 田町は心外だとしかめっ面を浮かべる。


「クルミちゃんになにかあったとしたら、それは俺じゃねー。レナがやることだ」


「楓……が?」


 信じられない気持ちで咄嗟に応える。


「あいつはな、今この瞬間、テメェと一緒だったときと違って、幸せに暮らしてるんだ。それが奪われようものなら、絶対に許さない。目には目を、歯には歯を、くらいは平気でやる。本人じゃなくて、その周りを攻めることで、テメェを後悔させるだろうな。どれだけの時間をかけようともな」


 田町はグラスを口へ運び、一口分喉を鳴らす。


「信じられないか? 信じられないだろうな。なにせテメェは、あいつのことをなにも知らないんだからよ」


 語気を強めながら、その満面には嘲笑が彩られた。


「なにかあったとき、シクシク泣きながら、ひとり首吊るようなお利口さんだと信じてたか? 違うぞ。あいつは不幸に嘆いて、ひとりで逝くようなタマじゃねー。クソ親に宣告をくだされたときは、沢山の無辜たる民を道連れにするつもりだったからな。


 その余波が、どう広がろうと知ったことじゃない。むしろ家族親戚田中道連れにしてやるつもりだったと、笑って言ってたからな」


 ただ、顔が強張っているのがわかった。


 あのいつだって大人しく、弱々しかった楓が、そんな過激な考えをもっていたことが信じられなかった。


 そんなことを楓がするわけないと、私は言い返せない。それを言うと、おまえは楓のことをなにも知らないからな、と嘲笑われるとわかっていたから。そして……今の私にそれを否定する術が、備わっていないから。


「わ……私たち家族はわかるけど」


 だから、湧いたのは一つの疑問である。


「なんで、田中さんまで……?」


 それが突拍子もなかったのだ。


 楓の周辺を考えると、田中と言えば隣人くらいしか思い浮かばない。一体私の知らぬ間に田中さんと一体なにがあったのか。私たち家族だけではなく、道連れに加えるほどの確執が、いつの間に生まれていたのか。


 その答えを求めんとすると、


「ギャハハハハ!」


 場にそぐわぬ哄笑が鳴り響いたのだ。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



コミック版が3月28日に発売、予約受付中!
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― 新着の感想 ―
[良い点] 田中www
[良い点] 実在したのか田中w
[良い点] なんで、田中さんまで... に耐えきれなくて笑ってしまいましたwww [気になる点] 書籍版が綺麗になってて読みやすかったのと、展開が違うのに期待大です [一言] 頑張って下さい 楽…
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