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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
わたしのためを思って言っているんだと、言わないでください

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02

「あぁ……」


 ただ、それは厳かにそびえたっていた。


 上背を軽々と上回るそれに、レナは感嘆の息を漏らす。その目に宿すのは輝きであり、それに両手をついた姿は、トランペット少年のようであった。


 今日はクリスマス。


 そしてレナは子供である。


 その目の輝きを見せたとき、その希望を応えてやりたいと考えていた。そこに打算も下心もない。クリスマスに贈り物をされた、子供の喜ぶ姿を見たいと思ったのだ。


 レナは目の輝きがこちらを向くと、


「センパイ」


「ダメだ」


 その希望をあっさりと打ち捨てたのだ。


「まだ、なにも言ってません」


「その無駄な目の輝きを見れば、言わんとすることくらいわかる」


「どうしても……ですか?」


「ダメなものはダメだ」


 目に宿った光はあからさまに消え去った。


「はぁ……」


 レナはわざとらしく肩を落とした。


 クリスマスという特別な日に、女の子の欲しがっているものを、真っ向から否と撥ねつける。端から見れば甲斐性無しの男に映るかもしれない。


 高価なものかと言われれば、確かに高価である。お値段税込み五十万円。ポンと払える貯金くらいはあるし、そのくらいの甲斐性を見せる気は、実はある気で今日という日を臨んでいた。


 それこそブランドものの財布とか、ネックレスだとか、はては指輪だとか。色々と見て回った先で、物欲しそうにしながらもぐっと我慢する姿に、こっそり買って夜にでもプレゼント。なんて、そんなくさい真似をする気であった。


 まぁ、相手はレナだ。それらが似合うことはあっても、欲することはないだろうが。ブランドでこだわりがあるとすれば、パソコン周りくらいなものだ。だからノートパソコンを新調するとか、いっそデスクトップパソコンを買い足すくらいは、望むのなら叶えてやりたかった。


 そんなレナが本日、一発目に欲しがったもの。


「こんなでかい冷蔵庫、うちにはいらん」


 冷蔵庫であった。それも庫内容量700リットル超え。真空チルドやらスリープやらデリシャスやら、はてにコンシェルジュなんやらと、説明を一々見る気が失せるほどに機能が盛り沢山。


「それになんだ、このわけのわからん機能の数々は。絶対持て余すだろ」


「大丈夫です。わたしならきっと使いこなせます」


「使いこなさんでいい。今使ってる冷蔵庫で十分なサイズだろ」


 我が家の冷蔵庫は一人暮らし用ではなく、300リットル超えの3ドアタイプ。よくわからんメーカーではあるが、仮にも家電量販店で買ったもの。型落ちの展示品を根切りに値切ったものではあるが、悪いものではないはずだ。


「そもそもあれだって、買ってまだ四年も経ってないんだぞ。金を払って引き取ってもらうなんて勿体ないだろ」


「なら、二台並べて使います」


「うちはシェアハウスかなにかか。これ以上、住人を増やす気はない」


「ふふっ」


 こんなやり取りをしているが、レナが冷蔵庫を新調したいわけではないのはわかっている。いや、今日一番欲しい物に出会ったのは確かであろうが。


 今日一発目に訪れたのは、大型の家電量販店。


 最近、レナのマウスがチャタリングを起こすようになった。家出をする前に買ったばかりのもので、それなりに値を張るゲーミング仕様。二年もせずに故障されては、おいおい、とメーカーへ不信を抱くところだろう。


 だが、俺はメーカーのせいではないのはわかっていた。なにせレナは、ゲーム中にキレるとよくマウスを叩きつけるのだ。チャタリングという不良が起きたのは、間違いなく日頃の行い、身から出た錆だ。


 いつもなら、黙って通販で買うところだが、折角外出するのだ。一度自分の目で見て、手に取って、その先で納得いくものを通販でポチりたいと、レナは言っていた。


 マウスの選別作業は十分で終わり、後は色んなフロアをぶらぶらとしていた。俺にとっては珍しくない場所でも、レナにとっては新鮮で面白いらしい。まさかクリスマスのウィンドウショッピングを、家電量販店するとは。俺たちらしいといえば、らしいかもしれない。


 その先で、冷蔵庫売り場へたどり着いたのが経緯である。


「この冷蔵庫、便利ですよ。外にいても、スマホで中身を確認できるらしいです」


「それこそおまえに必要ない機能だろ」


「でも凄いですね、最近の冷蔵庫は。スマホと連携って」


「冷蔵庫だけじゃない。炊飯器や電子レンジ、洗濯機からエアコンまで、なんでもかんでもスマホの時代だ」


「エアコンはわかりますけど、それ以外をスマホでって……なにができるんですか?」


「そりゃ米を炊いたり、レンチンしたり、洗濯したりだ」


「スマホでやる必要あります?」


「引きこもりのおまえにはわからんと思うが、外から操作できるっていうのは、社会人にとってそれはもう凄い便利でありがたいものなんだよ。きっと」


 正直、スマホでそこまでする必要があるのかは疑問である。企業が押し出したいのか、社会が求めているのか。どちらかはわからぬが、それが時代の波というものかもしれない。


 でも、これだけは確かと言えることがある。新しい技術というものは、最初から安定して提供されるものではない。いつだって初期の問題を抱えるものだ。


「けどこういう技術は、危険がはらんでるからな。俺はまだまだ、手を出したいものじゃないな」


「危険、ですか?」


「悪意のある第三者から操作される可能性だ」


 あくまで生真面目な声を出す。


「ちょっと前に、こんなニュースがあった。ネットに接続された食洗機に致命的な脆弱性。第三者に皿を洗われる危険性! ってな」


「ぷっ!」


 レナは堪えきれず、口元を覆って噴き出した。


「それは、その……凄い危ないですね。ぷ、ふふっ……」


「おまえ、そうやって笑ってるが、マジでシャレにならんからな、これ」


「え……」


「考えても見ろ。好き放題、家電を使われまくるんだぞ? 電気代とかシャレにならんぞ」


「あぁ……」


 レナは神妙な顔をした。


 炊飯器であれば、勝手に米を美味しく炊かれる危険性。洗濯機なら洗濯物を綺麗にされる危険性、なんてネットではネタにされるだろうが、勝手に家電を操作されるのは、かなり切実な問題である。


 安心して手を出すにはまだまだ未成熟な段階であり、更にいえば、そんな機能がついている高級品など、手を出せる身分ではないのである。


「そう考えると、なんでもスマホで連携できれば、いいってものじゃないんですね。流石センパイ、こういうのは詳しいですね」


「これでもIT系、これらを動かす技術を書いてる商売だ。この手のもんがまだまだ発展途上で、セキュリティがガバってるのはよくわかってるからな」


 得意げに、コンコンと冷蔵庫を叩く。


「なにがスマホで冷蔵庫の中身がわかるだ。裏を返せば、お隣さんに中身を覗かれるリスクがあるってことだろ。それを得意げに――」


 と、ふいにレナの顔から、落ち着きが失われたのが見て取れた。


 どうしたのだろうか。ここは尊敬の念を更に高めるところだが。


 そのそわそわとしている目が、俺を捉えているのではないのがわかった。それを通り越した後ろを見ているのだ。


 肩越しに振り返る。


 そこにいたのは四十路の夫婦。そして店員が一人。前者は疑念と不信をその顔に宿し、後者は客に向けるのに相応しくない恨みがましい(にがにがしい)目を向けられていた。


 ……冷蔵庫を買い求めんとする客と、買わせんとする店員の図だ。客側の身なりの良さを見るに、三流メーカーでもいいからと値切るタイプではないだろう。折角買うのだからいいものにしないとな、そこの君、案内してくれたまえ。ははー、わかりました、こちらはどうでしょうか、と店員はウッキウキ。最新技術をこれでもかと詰め込んだ、この店一番の品を案内していたところ、業界を得意げに語る底辺社会人の声が届いたというところか。


 子供相手にカッコつけたいからと、適当に嘯いている奴にセールスチャンスを邪魔されたら、こんな顔になるのも頷ける。


 流石に俺も、居心地が悪くなるというもので、


「レナ」


「はい」


「飯でも食いに行くか」


 いたたまれずそっとその場を離れたのだった。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



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― 新着の感想 ―
[一言] というか、自分はエアコンでさえスマホ連動いらないなぁ~ってタイプだなぁ~。 ちょっと前のタイプでもオンタイマーがあるし、小時間出るだけならつけっぱの方が逆に電気代安いしで。
[一言] まあでも実際、エアコン以外のスマホ家電はいらんと思うんですよね
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