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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
ずっと、終わらない夢を見ていたい   第二部

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「不良品在庫市の中ですら、真面目にやってこなかったからな。手元にあるのは資格でもスキルでもない。やってこなかったツケだけだ。そんな奴がサービス業はやだ、土方はやだ、自宅以外の警備はしたくねーって、業界を選り好みしたわけだ」


『それでプログラマーっすか』


「学生時代、打ち込んできたのはキーボードだけだったからな。オフィスビルでカタカタするスーツ姿に憧れたんだ」


『センパイはそういうのは得意だったんですか?』


「おう、ローマ字限定のブラインドタッチ。コピーペーストはショートカットキーを駆使。マシンスペックも読めれば、ネット社会のいろはを心得ている。このスキルを引っさげて、業界で成り上がってやるって野望を抱いたんだ」


『言っちゃあれっすけど、自称パソコン得意くんの典型っすね』


「ああ。それでパソコンは得意だ、ってドヤっている愚か者たちが集まる船に、ひとつなぎの財宝を求めて乗り込んだんだ」


 既に嫌な予感しかしない。聞いているだけで胃がキリキリしてくる。


「最初の三ヶ月は研修だ。そこでこの程度のことで金をもらえるなんて、人生楽勝だな、って社会を舐め腐るわけだ。でもそれは、英会話でABCのアルファベットがわかるようになっただけみたいなもの。そんな状態で客先に放り込まれて、後は頑張れっていうのが、あの会社のやり方だった。海賊船かと思ったら、奴隷船だったってオチだ」


『え、ヤバくないっすかそれ』


「ヤバイなんてもんじゃない。向こう側も金を払って戦力を呼んだのに、来たのはクソザコナメクジ。こいつなにしに来たんだって、人間扱いしてもらえんかった。十人はいた同期も、俺を残して半年で全滅したらしい」


『センパイはなんで辞めなかったんすか?』


「なんとか教えを請うて、家でも勉強して必死こいてたら、まあそれなりになんとかなっちまったんだ。これでも俺は、やればできる人間なんだ」


 わざとらしい声色を放つセンパイ。それは誇らしさに満ちたものではなく、思ってもいないことを語る道化のようだった。


「毎日終電のサービス残業しながら、そうやって二年ほどあっちこっちと客先を回されてたら、ある日社長が夜逃げしてな。上はガタガタでなにがあったのか詳しくは知らんが、給料が支払われんことだけはわかった。あんときはどうすればいいかわからず呆然としたが……バカ正直に常駐先へ出勤してるんだから、すっかり社畜になってたんだな」


『それでどうなったんすか?』


「向こうも事情は知ってたからな。『うちに来るか?』って、言ってくれたのが前の上司だ」


 どうやらそこで、センパイは転職したようだ。


「家の更新が迫ってたし、いい機会だった」


『そこでついに、ホラーハウスとの出会いがあったんすね』


「ああ。無茶な要求をしたら、無茶苦茶な家を紹介された。それで心機一転、新しい場所で仕事もプライベートも頑張るぞ、と最初は張り切ったもんだ」


『最初は?』


「労働環境がぬるま湯になったら、もうダメだ。これ以上頑張りたくない。勉強なんてしたくない。残業もほとんどしない代わりに、底辺のままでいい。そんな欲張りセットが俺の会社でのポジション。外から人を呼ぶよりは、こいつのほうが安価で使えるってな。そしてプライベートは知っての通り。こうしておまえのよく知る、模範的に将来性のない大人が出来上がったわけだ」


 自らを笑い飛ばすその様は、自嘲の色を宿していた。


 わたしにとってセンパイは、初めから大人だった。初めからこのような人だった。


 それが子供から大人へ。どのような経験、人生を経てこのように成長したのか。ないものとして見てきた前日譚を知ることとなった。


 だから……これが全てだと、思いたくなかった。


『もし子供時代に戻れるなら、センパイはどの時代に戻りたいっすか?』


「それはタイムリープで俺TUEEE系的な話か?」


『一番楽しかった的な話です』


「んー……そうだなー」


 過去を遡りながら唸りを上げるセンパイ。話の切り出し方が突拍子もなかったにも関わらず、真面目に考えてくれている。


 期待していた。この胸のモヤモヤを消してくれる答えを、数秒後にはもたらされることを。


 けれど十秒、二十秒と時が流れた先でも、センパイは唸り続けている。それは甲乙つけがたい思い出に悩んでいるのではなく、


「特にないな」


 思い至らなかったのだ。


『いやいや。センパイ、自分と違って学校はちゃんと通ってたんすよね? 非モテなりに野郎共とのネチョネチョした、汗臭い思い出くらいはないんすか』


「んなもんねーよ」


『痛いところ突いてすんません……まさかボッチだったとは』


「別にボッチってほどでもないぞ。学校ではクラスメイトとはうまくやってたし」


 煽るような指摘に対して、センパイはなんともなさげに返してきた。


「でもまあ、休みや放課後まで、学校の誰かといるっていうのはそうはなかったな。特に中学に入ってからは、ネトゲにドップだったし」


『あれ、ガミさんとは?』


「ガミは友達っていうよりは腐れ縁だったからな。学校ではよくつるんでたが、それ以外はさっぱりだ。むしろこっちで再会してからのほうが、付き合いが深くなったくらいだ」


『それじゃあ学生時代、ガチでリア友いなかったんすか』


「ま、そう呼べる奴いなかったのは確かだな」


 あっさりとセンパイは認めた。自嘲気味でもなく、強がりの裏返しでもなく、考えてみればそうかもな、と。


 わたしの中で重く渦巻いていた想像が、それで確信に変わった。


 ああ、やっぱり……


 センパイは……幸せを知らないまま大人になった人なのだ。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



コミック版が3月28日に発売、予約受付中!
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『センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?』書籍版、発売中!
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― 新着の感想 ―
うん…センパイは幸せを知らずに大人になっちゃったんだよね… ところでこれ、救われる話…?
[一言] 作者さんの好きなように進めていってください 応援しています
[良い点] 宝くじ当たって人生1抜けヒャッハーって二人で腐っていって欲しい気持ち
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