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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
ずっと、終わらない夢を見ていたい   第二部

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03

 レナの首が僅かに動く。


 こちらを見上げるまどろんだ目。唇の次は、その水気を帯びた瞳に目を奪われる。


 レナはどうやら、未だ夢心地なのだろう。


 俺の指先を両手で包み込むと、


「んっ……」


 唇でついばんだのだ。


 はむはむと甘えるような唇の感触が、波のように指先を刺激する。心地よさを通り越して、その刺激は官能的であった。


 手を引いて何事もなかったかのようにレナを起こす。それが正しい選択であるのはわかっているが、メドゥーサと睨み合ったかのように身体が動かない。


 そうやって身を任せるというよりは流されていると、指先は少しずつ、奥の方へとくわえ込まれていく。ついには唇とはまた別な、柔らかな感触と共に水気に感じたところで、


「……あ」


 醒めた音が耳朶を打った。


 まどろんでいたレナの薄目が、今やハッキリと見開かれている。


 俺の硬直が伝染したかのように、レナは微動だにしない。まるで時間が止まったかのようだ。しかし時間停止モノのAVの9割以上がヤラセである。レナはその多数派の存在であり、


身体は微動だにせずとも時間は確実に動いていたのだ。


 レナの顔が秒単位で赤くなっていく。


 超能力者ではない身であれど、今のレナの思考を言語化するのはあまりにも容易いものであった。


『くぁwせdrftgyふじこlp』




     ◆




「とりあえず風呂入ってくるから、それまでにふじこった頭を冷やしとけ」


 それだけを言い残し、センパイは自分の部屋を後にした。自らのベッドで眠りこけていた闖入者を、追求することなく恩赦を与えてくれたのだ。


 自宅警備員の本質を取り戻すかのように、すぐに自らの部屋に引きこもった。わたしの部屋はセンパイの隣室。隔てるのはふすま一枚だけ。薄くともその一枚が、今はなによりの精神安定剤だ。


 犯した醜態。何度首を振るっても記憶から抜け落ちてくれないし、一層脳裏に刻み込まれてしまう。


 心臓は早鐘のように鳴り響き、顔にはその熱が一層高まっていく。


 センパイの指先の感触が唇から離れない。心を落ち着かせるため忘れたいのに、心の底が惜しんでいるかのようだ。


 ふと、気づけば人差し指をくわえていた。


「うっ……!」


 慌てて唇から指先を離す。


 無意識下の行動。なぜこんなことをしてしまったのか、すぐに自己分析ができてしまう。


 比べていたのだ。自分のものとはまるで違う、ゴツゴツとしたあの感触と。


 ジッと指先に目を落とす。


 こんなことをして、気持ちが落ち着くわけがないとわかっている。それでも底なし沼にはまったかのように、変な思考から抜け出せずにいると、


「ふぅ」


 隣室からの声でようやく我に返ったのだ。


 プシュ、という音に続いてゴクゴクと喉が鳴っている。行水を終えたセンパイが、どうやら一杯始めたようだ。


 それを呼び水にして、この手はキーボードの上を走り出していた。早く言い訳をしたいと心が逸ったのだ。


『外が騒がしくなったのは、四時くらいっすね』


 だから第一声となるメッセージが、突拍子がないものになったのだ。


「ついさっきのことじゃねーか」


 けれどセンパイは、ちゃんと話に応じてくれた。あの醜態にはわけがあり、その説明のため順序を踏んでいると受け止めてくれたのだ。


『パトカーが近隣で止まるのは稀によくあることっすけど、ここまでのサイレンの大合唱は初めてっしたから。外の様子を見に行けなくても、ただ事じゃないのはすぐにわかったっす』


「実際ただ事じゃないからな。ホラーハウスに住み着いてから、一番の惨事だ」


『ついにお迎えが来たのかと思ったっす』


「それな。今回ばかしは、流石に肝を冷やした」


『チャイムがしつこいんで、マジで戦々恐々。庭にまで回ってきたときは、ガチで焦ったっすね』


「エアコンの室外機が動いてるからな。向こうも誰かいると思ったんだろ」


『ま、実際いたのは間違いないっすからね。あんときは自分の部屋までの距離が、千里にも感じたっすよ』


 長文は言い訳がましく感じるので、一度区切って送信した。


『そういうわけで、近くのベッドに緊急避難。気配を押し殺しながら、気づけば震えて眠ってたっす』


「ああ、そういうわけか」


 センパイは得心がいったようだ。腑に落ちた声を鳴らしている。


 わたしが頭から布団をかぶっていたのは逃げるため。なにかと問われれば現実から。あのチャイムはまさに、夢を醒ます警鐘に聞こえたのだ。


 わたしがなにより怖いのは、夢から醒めること。その先にある現実だ。それから目を背け耳をふさいでいる内に、意識を途絶えていた。


 次に目を覚ましたとき、夢か現かわからぬまま。あのような醜態を晒してしまったというわけだ。布団に潜り込んだ経緯はともかくとして、それについては弁解の余地はない。


『そういうわけですみません。ご飯の用意できてないっす』


 だからその追求されたくないので、矛先を逸らす。


「それは仕方ないから気にすんな。あれだけ外に警察が湧いてるんだ。呑気にいつも通りにしているほうが問題だ」


『そう言ってくれると助かるっす』


「今日のところは、弁当でも買ってくるからゆっくりしてろ。あ、それともピザでも頼んでみるか?」


 わたしの精神状態を慮って、センパイはそんな提案をしてくれる。


 その気遣いはとても嬉しい。今日くらいは甘えてみようと思ったが、その考えにかぶりを振った。


『そんな贅沢不要っすよ』


 食費を預かる身として、それは許せないと心が叫んだのだ。


『幸い、冷凍ご飯のストックはありますから。そのおかずくらいなら、パパっと作れるっすよ』


「大丈夫か? 無理はしないでいいぞ」


『モーマンタイっす』


 精神ダメージはそれなりにある。それでもジッとしているよりは、動いているほうが気持ち的に楽なのだ。


 冷蔵庫の中身を思い浮かべ、使いたい食材をリストアップしていく。その先ですぐに作れる料理を考える。炒めものか、丼ものか、いっそチャーハンか。


 そうやって頭を切り替えていた先で、


「あ……」


 今回の根本的な問題を思い出した。


 センパイはその答えを知っているであろうことは、先程の会話の中でわかっている。


『そういえばセンパイ』


 遠慮するほどの問題でもないので、ここは黙って聞いてみた。


『外のあれって、結局なにが起きたんすか?』


「ああ、あれな」


 ホラーハウスに住み着いてから、一番と言った惨事。


「向かいの家の子供が、家族親戚を皆殺しにしたんだってよ」


 センパイはよくある事件を語るように、なんともなさげに告げてきたのだ。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 呪いの強さが酷すぎて逆に腐海の底は清浄みたいな状態になってんの草生える。 [気になる点] 時間停止モノの1割弱は本物だった?!
[一言] ホラーハウスは伊達じゃないwwww もしや向かいの家の苗字は・・・田中? 一族郎党田中までMI☆NA☆GO☆RO☆SIだ!!
[一言] 昨今の世情からして全然笑えない話ィ・・・!!
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