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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
否融通社会軌条ノ機関者

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 地下鉄からJR。その一回の乗り換え、三十分にも満たない時間で、目的地の駅へとたどり着いた。


 帰宅ラッシュと重なり、雑踏の動きはどこか忙しない。


 常々思う。彼らは一体、なにをそんなに急いでいるのか。まるで一本乗り遅れたせいで世に災いが訪れる。危機から世界を守る、使命感に駆られているかのようにすら見える。


 私たちの足取りは、そんな彼らと比べ、どこか重たい。


 なにせこの先に待っているのは、望んだ希望でありながら、苦しい答えも与えられる。


 これは私だけではない。まどかもまた、等しく手にしなければならないものだ。


「この人、タマさんなの」


 似顔絵を指してまどかは言った。うっすらと口端を上げるその姿が、無理をして感情を押さえつけているのは明白だった。それでも強がりながら、困ったことに、と振る舞っているのだ。


 唖然とした。


 こんな偶然あるのだろうか?


 だって……と。次の言葉を見つけようとしていると、


「マスターにアポは取ってるから。後は呼び出してもらって、それで終わり。ほら、楓ちゃんに会いたいなら早く身支度しなさい」


 いつもの調子を気丈に振る舞う。


 眠っている間に、全てお膳立てをしていてくれたようだ。私を心配し駆けつけて、あの似顔絵を見て、それですべてを察して……


 どんな思いで、私のためにしてくれたのか。複雑なんて言葉だけでは片付けられないし、なにより片付けたくはない。だって間違いなく、苦しさと辛さに満ちた葛藤があったのだから。


 言われるがまま身支度を急ぐと、「じゃ、行こっか」とだけまどかが言ったのを最後に、私たちは声を交わしていない。


 だって私はこれから、今日までずっとまどかが恋をしてきた相手を糾弾する。まどかがお膳立てして、呼び出してくれた場で。


 家を出るときは横並びであったが、こうして目的の駅へ降り立つと、まどかの後ろを歩いている。後ろめたさを感じている、それを体現するかのようだ。


 改札を抜け、二択の出口を迷うなく抜けた先で、


「前にね、マスターが言ってたんだ」


 まどかは口を開いた。


「楓ちゃんが逃げ出した先で、幸せになっていたらどうするか、って。……きっとマスターは全部知っていた。だからあんな風に、忠告したんだと思う」


 声音はいつもの調子だ。けれどそれが、必死に平常心を保っているように聞こえた。


「あーあ、信用して相談したんだけどな。頼ったつもりが、いいようにあれもこれもと聞き出されちゃって……」


 まどかは肩越しに振り返ると、


「わたしって、常々人を見る目がないようね」


 困ったものだと笑っていた。


 それが開き直ったものではない。胸に宿った悲哀を、ただただ押し殺したもの。自分は大丈夫だからというやせ我慢より生み出された、私を慮る心なのだ。


 あまりにも痛々しく映った。けれど込み上がる感情を、なんとか喉元で抑え飲み込んだ。


「しょうがないわ。世の中に完璧な人なんていないもの」


 まどかの横に並びながら、その在り方に倣った。


 本音はどうあれ、いつもの調子でいきたい。まどかがそのように示したなら、場違いであれその思いを無下にはしたくなかった。


「まどかが背負っている罪、その反動かもしれないわ」


「なに、わたしは可愛いだけで罰せられてるの?」


「そう。男運を取り上げて、バランスを取られてるのよ」


「タマさんはともかく、マスターは女なんだけど?」


「きっと、その人は性転換手術をした元男ね」


「会ったこともない相手に、よくそんなこと言えるものね」


「親友の信頼を裏切った相手だもの。例え本人を前にしても言ってやるわ。わかってるぞ、おまえは男だろ、って」


 まどかは意外なものを目の当たりにしたよう、上瞼を引きつらした。堂々と人を悪し様に言う宣言、その私らしくなさに驚いたのだろう。


 冗談のつもりが、核心をついていた。そんな未来が訪れるとはつゆ知らず、まどかは噴き出した。私もまたそんな様に釣られてしまった。


 私たちの間に立ち込めていた暗雲が、それだけで払われるような気がした。


「タマさんの受け売りの話をしたときのこと、覚えてる?」


「ええ」


 忘れるわけがなかった。私と楓の間にあった問題点。その解決策。それをまどかからもたらされたからこそ、なんとか顔を上げられたのだ。


「あれってさ、タマさん自身の経験なのよ」


「それって……あの男が喋る側で、楓がキーボードをカタカタしていたってこと?」


「そ。スタートは扉越しだったのも、通知が鳴り止まなかったのも、きっと本当にあったことなんだと思う」


 まどかは顎を上げ、


「そうやってコミュニケーションを取りながら、まずは一言二言の返事は声に出させた。楓ちゃんの手を取りながら、一段、また一段と階段を登らせてあげたんでしょうね」


 少し遠くを見るような目は、そのときの光景に思い馳せるようであった。


 あの日、まどかに諭された後、楓のような境遇にあった女の子の話というものを聞かされた。自らの意思を口に出し、自然と喋られるようになった、と。


 それが実は楓の話だったというのなら、五年もの間、私と父さんがいかに不甲斐なかったか。それを突きつけられる現実である。だってあの男は、十五年もの間家族であった私たちができなかったことを、たった半年でやり遂げたというのだから。


 楓の家出を受け入れたあの男は、間違いなくろくでもない大人だ。ならそんな大人と比べた家族(わたしたち)は、一体なんと呼べばいいのだろうか。


「椛。その意味は、わかってるよね?」


 神妙な面持ちでまどかは言った。


「……うん」


 もちろんと私は首を振る。


 昨日の時点でわかっていたこと。それが明確な形として、今ここで立証されただけ。


 楓は間違いなく、逃げ出した先で幸せを享受している。


 それはただ、あの男が家出に都合がいいだけだったからではない。


 私たち家族がわかってあげられなかったことを、正しく理解してもらえている。


 私たち家族がしてあげられなかったことを、できるようにしてもらえている。


 楓にとってあの男の家は、雨風をしのぐだけの場所ではない。幸せな居場所とすらなっているのだ。


 今からそれを取り上げる。その結果、楓からどのような感情を向けられることになるのかも、ちゃんとわかっている。


 あの絵を描くと決めたときから、覚悟はちゃんとしているのだ。


「なら、後一つだけ」


 まどかは微笑みながら、


「わたしはいつだって椛の味方だから。それだけは、ちゃんと覚えておいて」


 頼もしいことを言ってくれたのだ。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



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― 新着の感想 ―
すぅーっ… いや、相手が悪すぎる てか下手に取り上げて下手に間違えると楓ちゃん多くの人巻き込んで自殺とかとんでもないことするよ!?大丈夫そう? てか、ちょっとずつまずは話から、でしょ… 何様?
[気になる点] そもそも、あの父親って言う恐ろしいウィークポイント抱えてるからなぁ。 無責任の権化と化したタマがそこを中心に攻め立てたら手も足も出ない気もする。
[良い点] マスターの事見抜いてて笑う そうか……そんな覚悟()を持って望んだ話し合いの場であの先制パンチ食らったのか……
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