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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
否融通社会軌条ノ機関者

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09

 十二月二十四日。


 クリスマスとそのイヴ。それらの違いを正しく認識することに、果たして意味があるのだろうか。そう首を傾げてしまうほどに、この国のクリスマスは宗教色が薄味だ。


 結局、大切なのは中身ではなく形。特別な日を特別に飾り付けて、楽しみたいだけである。


 偉そうにしながら、それを愚かだと主張したいわけではない。なにせ毎年、十二月二十四日という日を、特別に飾り付けて楽しんできた。本来の意義を今更持ち出すほど無粋なつもりはない。


 ただ、今年は特別な日として飾り付けたい、と積極的になれないだけ。それでも無視できない付き合いがあり、飾り付けた笑顔の裏では、なぜ放っておいてくれないのかと眉根を寄せるのだ。こちらの事情も伝えないでおいて、身勝手なものだと自虐的な息を漏らした。


 ようはクリスマスパーティーのお誘いを、無下に断れなかったのだ。


 去年は素直に楽しめたイベントだが、今年はそうはいかない。このような場で楽しむのは後ろめたさすら感じる。


 楓は今頃、どうしているだろうか。


 飾り付けた笑顔の裏で、そればかりが脳裏を駆け巡る。


 逃げ出した先で、元気でいるだろうか。いいや、そもそも楓のような子供が、親族を頼らず居場所を作る方法を考えると……胸が苦しくなる。そして帰るよりマシだと、その方法を取り続けている。はたまた、帰る選択ができない状況に陥っているのか。


 どちらにせよ、暗雲が立ち込めたこの気持ちが、楽観的に晴れることはなかった。


 これまでの日常を営む。そう折り合いをつけたつもりだが、いつしか息苦しさに限界を迎えた。まどかとの時間以外、楽しいだけの時間に耽られないのが、後遺症のように引きずっている。


 一時間もいれば相手の顔を立てることもできたであろうと、体調不良を理由に会場を辞した。


 十二月下旬の夜気は、呼気こそ白く染めるが、頬を痛めつけることなくひんやりする程度。夜に出歩くのが辛くないのは、地元と比べた東京の利点だ。ただし外出時の屋内は寒い。温かい服装をしていないとコートが脱げないのが難点。一長一短、いいとこ取りはできないのであった。


 冬の夜。七時を過ぎているというのに、外は眩いくらいに明るい。


 上京を一度も果たしたことがない者でも、名前を出せば「ああ、あの街ね」と通ずる東京を代表する繁華街。立ち並ぶ建造物によって空は狭く、溢れんばかりの光によって空の輝きは失われている。


 クリスマスイヴということもあり、辺り一帯はイルミネーションに満ちていた。


 特別な日へと飾り付けた街並みには溢れんばかりの雑踏。前に進むのにも一苦労で、ゆったりとしたまでの足並みを強いられた。


 恋人たちがよく目につくのは、クリスマス効果だろうか。必ず一組以上が視界に入る。これが今日の正しい在り方だとばかりに、仲睦まじく寄り添いながら手を絡ませているのだ。


 どこを見てもそんな二人たちだらけ。


 羨ましいとも、いつかは自分もこんな風に、と思うほどの興味はない。今日はそういう日だと改めて確認するだけの、イルミネーションのようなもの。数秒後にはどんな形であったかも思い出せない雑多なものだ。


 そんな雑多にある景色の一部に目が止まった。


 心が奪われるほどに理想的な光景だったからではない。後ろ姿しか見えていないのだから、点数はつけられない。


 だが、目に止まった。


 寄り添っている両人にではなく、片割れの女性にだ。


 ベージュのダッフルコートにプリーツのガウチョパンツ。フードを被っているので、後ろ姿からはどんな髪型かはわからない。背丈は男性より頭一つ分小さかった。


 そんな面白みを見いだせない、景色の一部に目を奪われたのは、既視感を覚えたからだ。


 かつて私が選んだ服。その背格好にまとわれているだけで、珍しくもないはずの姿が、唯一無二に見えたのだ。


 楓の後ろ姿に。


 たった二歩先にそれはある。


 信号は赤。横断歩道を前に二人は立ち止まっていた。


 無言でありながらも、気まずい沈黙ではないのだろう。寄り添い、手を絡ませながら、後ろ姿ながらとても幸せそうに見えた。


 だから自らに言い聞かせるかのように、かぶりを振った。


 他人の空似だ。こんな偶然、あるわけがない。


 無理に追い抜いて確かめてみたいという衝動すら湧かなかった。


 カッコー、ピヨピヨ、と青を告げる音がする。


 向かう方角が一緒なら、その背を追うような形になる。追うなんて言葉に当てはめてしまう辺り、楓であったらいいのに、と未練たらしく思っている証拠だ。


 追い抜いて確認しないのはきっと、ガッカリしたくないから。期待するだけ期待して、裏切られるのが嫌なのだ。


 一年半以上も行方を眩ました先で、こんな幸せそうに出歩いているわけがない。


 このように幸せであってほしいと願う傍ら、本当に楓であったのなら、それはそれで複雑だ。


 信号を渡った先は、足並みを強いられるほどの雑多さは薄れていた。


 街中に何十もある駅構内への出入り口。


 彼女たちはその階段を下るようだ。決して釣られたわけではなく、目的通り私もそこから駅構内へと下ることを選んだ。ただし階段ではなくエスカレーターだ。


 一人分ほどの幅しかないエスカレーターは、下りだけではなく上りもある。ただ故障中なのか動いていない。そんな上りの向こう側に階段があった。


 彼女たちが階段を下る速度より、エスカレーターのほうが早い。すぐに横並びとなり、意図せず追い抜く形となった。


 期待なんてしていない。


 けれどもつい肩越しに振り返り、フードの中身を覗いてしまった。


「え……」


 その音は、私が漏らしたものではない。もしかしたら、最初からそのような音など鳴っていなかったのかもしれない。


 でも本当の音であれ、幻聴であれ、その口元は確かにそのように動いたのだ。


 真っ直ぐと、この目とその目はあう。


 ずっと追い求めていた、懐かしすら感じる顔。


 世界で一番大事な家族のものだったのだ。


「姉、さん……」


 音が届くことはなかった。それでもわなわなと震える口元は、そのように動いていた。


 目は見開かれ、顔はこわばり、その色は一気に青ざめていくようで……


 わかってはいた。


 楓が私に抱く想い。


 ウォーリーを探さないで。そこにすべて込められていた。


 それでも私は、楽観的だったのかもしれない。


 顔を突き合わせさえすれば、手を伸ばしてもらえる、と。


 だからこそ、咄嗟にその名を呼べなかった。


 だってそれは怖いものを目にして、恐れる姿そのものだったのだから。


 躊躇した時間。エスカレーターが二段ほど下ったくらいだろうか。


 身を翻した楓は、階段を駆け上っていった。寄り添っていた男を取り残すことなく、固く握りしめた手を引っ張って。


 楓が恐れているのなら、男は狼狽えていた。


 階段を上っていく楓に逆らい、留まろうとすることはない。けれど真っ直ぐとその顔は、私を捉えていた。


 青年、と呼べるほど若くはない。かといって三十代ということはないだろう。身なりは小綺麗でこそあるが、これといって特徴的な容貌ではない。街ですれ違ったところで記憶にも残らない、どこにでもいる社会人といったところだ。


 だがこの瞬間、私から顔を逸らすたった一秒にも満たない時間にも関わらず、その顔は深く記憶に刻まれた。


 あっという間に二人の姿は視界から消えたところで、私はハッとした。


「待って……」


 楓の後を追おうにも、これは下りのエスカレーター。一人分の幅しかなく、後ろには人が立ち並んでいる。押しのけて逆走することができなかった。


 下りきるまで十数秒か。


 今までの人生で、一番惜しくありもどかしい時間である。


 届くことはないのはわかっている。


 それでも衝動を抑えきれず、


「待って、楓ッ!」


 そう叫ぶしかなかったのだ。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



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― 新着の感想 ―
[一言] 読者は、放置プレーされ過ぎてルパンダイブの構えで待ってますよー♪ さぁ、ご褒美or撃墜!
[一言] つまり戦場には立てなかったと
[一言] 正直引っ張りが長い
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