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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
否融通社会軌条ノ機関者

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02

「だってすごい殺し文句が出るんだもの。……あーあ、椛が男だったら、わたしの恋の遍歴に黒歴史は生まれず、素晴らしき青春を送れていたはずなのにな」


 今度は小さなため息をつきながら、まどかは残念そうに両肩をすくめた。どうやらあったかもしれない幻想を惜しんでいるようだ。


 もし私が男であったら、自分たちは付き合っていたはず。


 親友相手になかなかの発言だが、これがお酒の席というやつか。まだ二杯目だがどこかのぼせたような、ふわふわとした高揚感。


 だから、なにをバカなことを言っているんだ、と笑うところを、


「それは私が男である以上に、あんたを好きになる前提じゃない」


 バカみたいな可能性を推し進めてしまった。


「だってわたしの可愛さは罪だって言ったのは椛でしょ? 性格の相性だってこんなにいいんだもの。椛が男に生まれたら、わたしのことを好きにならないわけがないのよ」


 まどかのしたり顔は、そんなこともわからないのか、と笑っているようである。


「それに楓ちゃんの引きこもりも、すぐに解決したかもね」


「楓の問題も?」


「椛の男版なんて、女の身勝手な幻想と欲望を、そのまま形にしたようなものだもの。そんな兄を持った日には、『わたし、兄さんのお嫁さんになる』って言うくらいのブラコンにならないわけがないじゃない。不登校になっても、椛から逃げ回らずベッタリね」


「話し合う余地が、いくらでも生まれたってわけね。それなら確かに、ギリギリまで問題を引きずらずに済んだかもしれないわね」


「椛が男というだけで、わたしや楓ちゃんは簡単に幸せになれたはずなの。真面目に生きて、罪一つ犯してこなかった椛だけど、違ったようね。女に生まれてしまった。それが椛の罪であり、わたしと楓ちゃんの不幸なのよ」


「成人の日に、とんでもない罪を被せてくるわね。おまえが女に生まれたせいで、自分は不幸なんだって糾弾される日が来るとは思わなかったわ」


「ま、そのくらい椛のことが大好きってことよ」


 にんまりとまどかは言い切った。


 億面もなくここまでのことを言われるのは素直に喜ばしかった。けれども正面から受け止めた弊害は、照れという形で表現しそうになる。それを誤魔化すようにグラスの中身を空にした。


 めざといまどかは、そんなグラスに三杯目を注いでくれた。


「だからそんな椛に、もうちょっと余裕を持って生きてくれたらな、と思ってるのよ」


「あら、私って、そんなに余裕のないように見える?」


「切羽詰まってるとか、そういうのじゃなくてさ。例えばこうやって、私がお酒を飲んでるような真似をしたりとか」


「車通りもない場所での赤横断くらい、してもバチは当たらないぞ、って?」


「そうそう。ルール違反なのはわかってるけど、皆やってることじゃない。皆が楽しんでる横で、椛一人が我慢しなくてもいいんじゃない?」


「まるで悪い蛇の囁きね」


「あの果実は食べても死ぬことがない上に、とても美味しいのよ。さあ、椛も我慢せずにお食べ」


 まどかは胡散臭いまでのしわがれた声を出す。悪い蛇の真似のつもりなのだろうが、これではまるで、毒りんごを進める老婆である。


 親友を悪い道へと誘う。世間から見ればまどかの行いは、褒められたものではないだろう。皆がやっていることだからとはいえ、義務や規則を蔑ろにしろと勧めているのだから。


 でもそれは百パーセントの善意であり、まどかなりに慮った友情なのだ。


「私のことを考えて、悪い道へと唆してくれるのは嬉しいわ。でもね、まどか。私は皆が言う真面目だから、バカ正直に義務や規則に従ってるんじゃないの。これが一番楽だから、この生き方に準じているのよ」


 だから今日まで放置してきた勘違いを正すのに、いい機会かもしれない。私はまどかが信じているほど、立派な人間ではないということを。


「長い付き合いだけど、まどかは私のことを誤解しているわ」


「誤解?」


「私が目指しているものは覚えてる?」


「弁護士でしょ? 椛らしい将来の選択ね」


「弁護士のなにが私らしい?」


「曲がったことや差別とかしない、弱い人の味方なところとか」


「そこを誤解しているのよ」


 くすりと笑ってしまった。そんな尊敬できる人間性だと捉えられていることに。


「弱い人のためになにかをしたい。そんなこと、考えたことないもの」


「……え?」


 あっけらかんと私が言うと、まどかはポカンと口を開いた。


「見ず知らずの他人のために、無償奉仕なんてごめんだわ」


 口に続いてまどかの目は見開かれた。まるでここにいる人物が、文野椛なのかと疑うかのように。


「もちろん、目の前で落とし物をしたら拾ってあげるし、迷子がいれば手を差し伸べるわ。見返りなんて欲しいと思わないし、情けは人のためならず、なんて言葉を持ち出すつもりもない。目の前の人助けを渋るほど、人生に余裕がないつもりはないわ」


「で、でも……無償奉仕はごめんだとまで言ったじゃない」


「私はね、触れ合った縁は大切にするわ。でも無縁のために動きたいとは思わない。神が死んだ世界で、聖人ごっこなんてしていたら身が持たないもの」


「神が死んだ世界?」


「神の教えに則り排斥されてきた人々。彼らに類する存在が、情報社会の発達で結びつき、一致団結して声を上げられる時代になった。自分たちの生き方を社会モラルに組み込もうと、新たな勢力が次から次へと台頭してきているわ」


「ま、今はそういう時代よね」


「聖人ぶって、そんな人たちに手当たり次第、手を差し伸べ認めてみなさい。すぐにパンクするわよ」


「……確かにああいうのって、キリがないものね」


「私たちが考えなければならないのは、彼らの生き方がモラルに組み込まれた時点で、どう許容し受け入れるか。社会がそれを多様性と認めた時点で、排斥行為は差別になるからね。逆に言えば、認められない内はただの異端。わざわざ進んで、受け入れる義理はないってことよ」


 私は肩をすくめる。


「面倒なのは、おまえたちの活動に興味がない、なんて気軽に言える時世じゃないってことね」


「なるほど……わたしが椛を誤解し続けてきたのは、そういうことだったのね」


 得心がいった顔を浮かべるまどか。どうやらすぐに、言いたかった意味を受け取ってくれたようだ。


「自分さえよければそれでいい。こんな本音、人前で主張することじゃないもの。例え多数派の本音であろうとも、建前で上手く隠すのが、真面目な生き方の一つよ」


 偉そうな教えを説くように人差し指を立てた。


 今日まで私は、まどかの前でいい子ちゃんぶってきたつもりもない。ただ聞こえの悪いことを、わざわざ口にする必要もなかっただけ。今日はいい機会だから、まどかの前で建前を取っ払ったにすぎない。


 自分さえよければそれでいい。それの一体なにがいけない。赤の他人のことまで考えていられるか、と。


「後は……そうね。私たちの身近なもの。女性の権利向上の活動。ああいうのって、興味ないのよ」


「興味ない?」


「私は今の社会で女であることに困ったこともないし、大きな損をしたこともない。むしろ都合がよかった機会は多かったし、得だって沢山してきたわ。だから自らの待遇に、不満を覚えたことってないのよ」


 人間見た目じゃないとは言うが、これは綺麗事である。


 いい意味で私は、目に見えて違う対応を取られることが多い。これは異性相手に限らず、同性からもそうだ。隣に置く者として認められ、ときには羨望を向けられたりと、見た目がそのまま格差となるほどに重要な要素を占めている。


 私は自らの容貌を、誰よりも美しいという自負もなければ、誰よりも綺麗でありたいとも願っていない。けれど周りがどのような評価しているか。その客観性に対して、主観性のズレは然程大きくないはずだ。


 この容貌が平凡、もしくはそれ以下であれば、まどかの親友の立ち位置にいることに、いらぬ陰口すら叩かれるだろう。私だけではなく、まどかすらも攻撃の対象となるほどに。見た目が釣り合っていないというのは、同性異性問わず、それだけで後ろめたいものがある扱いされるのだ。


 私は未だに、恋も愛もわからぬまま生きてきた。けれど常識的な態度を取るだけで、それを向けられる機会は多々あった。それで嫌な目にあったこともあるけれど、その何十倍もの人たちが味方してくれて、恩恵を受けてきた。 


 そのくらい社会にとって、見た目は武器となる。それで男をたらしこもうなんて気はさらさらないが、問題にならない程度の役得は享受していた。そこに能力という中身を伴っているところを発揮すれば、欲しいものは簡単に手に入ってきたのだ。


 家族の問題を除いて、私の人生は順風満帆なのである。


 難しい顔を見せながら、まどかは喉を唸らせている。一口お寿司をパクリとし終えた先で、


「この話を聞かされたら思うだろう多数派の主張。それを口にしたほうがいいところ?」


 あくまで自分の意見ではないが、なんて顔をした。


「ええ、いいところよ」


「それはおまえが恵まれてるからだ」


「そうなの。私って、凄い恵まれてるのよ」


 嫌味でもなんでもなく、自覚していることを口にした。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 64話まで読了。 見た目は大事。この物語で一貫して語られてる気がします。 けい先生の見につまされた思いがあるようなそうでもないような違ってたらすいません。 初見の場合、他人を評価する上…
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