表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
非遵法性享楽主義者ノ人生論

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/118

15

 問題の学校、その最高責任者が首を吊った。


 責任の所在が確定した。もう自分が被ることはないだろう。タマはこの結果に満足そうにしながら、今回の騒動の溜飲を下げたのだ。


 これ以上動くことなく、求めることなく、俺の祭りはこれで終わりだとばかりに、主催者の座から退いた。


 かといって、それで祭りが終わるということはない。


 なにせこれは、打ち上げ花火を楽しむ祭りではない。炎上騒動である。


 放火魔が自ら起こした火災に満足して、その場から去ったところで、それで鎮火するわけではない。依然として燃え上がったままだし、集まった野次馬たちも留まり続けたままだ。


 学校がひとまずの落ち着きを見せるまで、一ヶ月は更にかかった。


 火災が収まったところで、焼き払われた跡地でこれまで通りの生活ができるわけがなく、色々と問題はついて回った。


 まず三年生については、進路に大きく響いた。底辺校らしく、元々進学を目指すものは一握り。ほとんどの者が就職するのだが、求人数が過去最悪。今回の騒動で関係ない者たちは、就職難に陥ったのだ。


 特に私たちのクラスは担任が変わったこともありてんてこ舞い。問題ばかりが起きて、見越していたまともな就職ができたものはいなかった。


 後日談で知った話によると、この就職難は未だに尾を引いているらしい。負の遺産は次の世代にも継承され、多くの者たちの足を引っ張った。


 それだけではなく、次の年は一学年四クラスが三クラスに減っていたようだ。こんな高校には入りたくない。どれだけ遠かろうと、まともな底辺たちは市外に進学先を求めたようだ。そのせいで相対的に不良品の割合が増え、これはこれでまた、治安の悪化に繋がったらしい。少子化ということもあり、今では二クラスとなりそれすらも定員割れしているとか。


 斎藤を玩具にしていた不良品たちは、誰も地元に残っておらず、行方を知る者は誰もいなかった。わかるのは父さんの会社、おまえのせいで倒産したとか、クビになったとか、いられなくなったとか。子の責任は親の責任だと、無責任な正義の鉄槌は勤め先に伸び、色々とあったらしい。今回の騒動で、無関係な会社を含めていくつか潰れたようだ。


 後は高橋と斎藤の両親。その末路を含めて、帰郷した際、離れてからの後日談を聞かせて貰ったのだ。


 無責任祭りは、何千人もの足を引っ張り、何百人もの人生を狂わせ、人を死に追い込んだ。


 私が今日まで生み出した被害者なんて、この数字の前ではちっぽけなもの。


 そして祭りの主催者は、卒業後すぐあてもなく上京し、適当に就職し、巨乳JK美少女を自宅警備員雇用して楽しくやっているのだ。因果応報とは一体なんなのかと、物議を醸し出す案件である。


 タマは自他ともに認めるろくでなしだ。かといって、私のような人を食い物にする人でなしではない。日々の生活の中で、レールとルールを外れるような真似はしない。正しいに準じているのではなく、ただ罰を厭うて我慢しながら、タマなりに楽なほうへ流れているだけである。


 それが今回責任問題に直面し、対応を強いられた。そんな責任を押し付けられるのはごめんだと、楽なほうへ流れるだけでは済まない事態に追い込まれた。覚悟を決め、開き直って、問題解決へ向けて動いたのだ。


 それによって敵だけではなく、どれだけの他人が犠牲になろうとも。自分さえ助かればそれでいい。保身に走ることに関しては、他の追随を許さないを体現した。どうでもいい相手を踏み潰しても心が傷まない、私と同じ才能を発揮したのだ。


 友情とはその者と過ごした、楽しい日々の中で生まれる。というのであれば、この無責任祭りを通して、私の中に芽生えたのかもしれない。


 あのときは最高だった、楽しかったという思い出は、まさに輝かしい青春の一幕。


 青春時代にそれをもたらしてくれたのは、タマ一人だけ。だからこそ友人と呼べるのはタマくらいなものなのだろう。


 それゆえに惜しい。責任を厭い、罰を恐れすぎる小心者っぷりさえ克服すれば、こちらの世界でいくらでも大成したであろうに。覚悟を決め開き直ったタマは、それほど相手に容赦がなく、自分がやりたいことを貫き通せる力を持っているのだ。


 後、楽に流される自堕落なところか、問題を先送りにするとか、与えられた環境での向上心とか、もっと未来を見据えるとか、その色々さえ克服すればと思ったところで、前言を取り消そう。小心者っぷりを克服したところで、タマはこっちの世界で大成しない。


 やることをしっかりやっている大人は、レールの上でもそれなりの成功を収められる。他人のためどころか、自分のために頑張らないから、タマは社会模範的なろくでもない大人なのである。


 そんなタマが、禁断の果実を背負い込んだ。堕ちるときは一緒と誓い、ついには口にすると決めたのである。


 その前の儀式として、光の下へと連れ出す。


 果実を口にするのに必要ないはずなのに、ただ楽しませてあげたいという、純粋なる想いから新たなリスクを背負った。


 そのリターンが果たして、ハードルを倒してしまった結果に見合うものであったのか。


 十二月二十五日の今日、私はそれを見届けることになる。


「いきなり呼びつけて、なんの用だガミ?」


 店に入ってきたタマの第一声。そこに不快感もこもっていなければ、迷惑そうな色もない。不思議そうにもせず、今日の天気を問うくらいの口ぶりだ。


 電話のマナーも守らず、要件もつけずにタマを呼び出した。余計なことを問うこともなく、黙ってそれに応じ、すぐにやってきたのだ。


 だからなにが待っているのか、薄々察していたのかもしれない。


 今日の昼頃に、現代の電話のマナーを大事にする娘が、マナー違反をしてきたのだ。


「突然ごめんなさい、マスター」


 いつもの陽気で明るいものではない。彼女に似つかわしくないほどに物々しく、暗澹たる声音だ。


 二度とその姿を見ることはないかもしれない。そう思っていた相手から、このように連絡をしてくるのだ。ただの相談とかではない、なにかあったのだろうとは感づいた。


「どうしたの?」


「今日、お店を開ける前にお会いできませんか?」


 乞うようなでありながら、押し通すかのように語気は強かった。


 私は二つ返事でそれを受け入れた。


 今日は元々お店を開けるつもりはなかったので、会うのは開店時間以降でも構わない。そう告げると、夕方の六時を指定されたので了承した。


 お会いできませんか。なんのために会いたいのかも教えられず、こちらもまた追求せず電話は終わった。


 一つの可能性が頭をよぎっていたからだ。


 そうして迎えた約束の時間。その五分前に彼女たちはやってきた。


 口を開かずとも、その顔を見ただけで全てを察した。


 クルミちゃんの顔ではない。その後ろから覗かせた顔だ。


 かつてクルミちゃんが持ってきた尋ね人の写真。その面影を感じさせる、美しい黒髪の乙女だ。


 写真の当人が成長した姿が、こうして目の前にあるのではない。血を分けているからこそ、顔が似通っているのだ。


 不穏な空気を漂わせ、固く唇を結んだ彼女を見ながら、


「タマを呼んでほしいのね」


 第一声で用向きの本題へ入ったのだ。


「マスター……」


 息を飲んだクルミちゃんは、それ以上の音を出すことはない。


 全部知っていたのかと。信用を裏切られたように、その顔は悲しげに沈んでいた。


 タマを呼び出し、すぐに来ると告げた後も、二人はなにも聞いてこようとしなかった。私が座るよう促さなければ、きっとそのまま立ちぼうけていただろう。


 タマの指定席。その反対側。


 そんな先客二人をタマは目にし、


「昨日ぶりだな、クソ姉」


 顔色一つ変えず、堂々とした佇まいで文野椛を呼んだのだ。


「なっ……!」


 不意打ちとも言える先制攻撃に、椛は憤る暇すら与えられず唖然とした。


 今日の用向きは、社会的観点から見てタマに正当性なんてものはなにもない。一方的に糾弾され、責められ、罰せられるべき立場にある。


 当人もその自覚はあり、それは互いの共通認識だとすら椛は信じていた。


 なのに出会い頭にこれである。


 その光景があまりにも面白くて、私は軽く噴き出した。


 これでも私は友人だ。例え社会的に見てタマが悪くても、肩入れするほうは決まっている。


「援護は欲しいかしら?」


「いらん。そんなものより一杯くれ」


 礼儀として差し出したものより、タマは酒を欲した。


 私を巻き込まないようにするための思いやりではない。街頭で配られるポケットティッシュと一緒。オイルショックなら嬉々として求めるであろうが、タマにとってそういう時世ではないということだ。


 泰然たる態度で横目にすることもなく、椛を通り過ぎたタマは指定席へと座った


 椛は目を見開き肩をわなわなと震わせるも、押し黙ったまま。タマの次の出方を伺っているのではない。信じられない振る舞いを前にして絶句しているのだ。


 注いだビールを差し出すと、タマは一気に呷って空にした。これから始めることへの景気づけ。舌の回りを滑らかにするための潤滑油だ。もしくは燃料か。


 タマは悠然と足を組むと、改めて椛に真っ向から向き合った。


「さて、これでも社会人だ。自己紹介くらいはしてやる」


 これは間違いなく、辛く苦しい戦いになるだろう。


 社会にとってどちらが正しいかは決まりきっている。根っこをいくら掘ろうとも、タマが社会を味方につける術は眠っていない。


 死ぬほど嫌いなものは責任。


 保身に走ることに関しては、他の追随を許さない。


 そんな男が背負ったリスク。その爆弾の導火線に火がついた。楽なほう楽なほうに流されたままではもういられない。


 責任問題に直面し、対応を強いられたのだ。


 子供の頃に使った飛び道具は使えない


 今度は正面から堂々と、問題と相対さなければいけない。


「俺は田町(はじめ)


 相手はそんな、覚悟を決めて開き直ったろくでもない大人。


「テメェの大好きな妹の就職先だ」


 正しい生き方だけを全うしてきた、弱点丸出しの子供がどこまでやれるのか。


 心が折れず泣かなければ、それだけで大健闘といったところか。

以上、非遵法性享楽主義者ノ人生論はこれにて閉幕です。

次は椛視点となりますが、現在書き溜め中です。

大きく変わるかもしれませんが、導入を活動報告で先行公開しております。


簡単な解説、今後につきましては活動報告のほうでさせて頂いております。

後、この作品が思っていたものと違うと感じられている方がいるのは、感想のほうで把握させて頂いております。

なぜそうなったのか、活動報告に当作品の説明をさせて頂いております。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1426905/blogkey/2779253/



当作品は作者の主張、メッセージ性を込めることは一切ありません。

劇中で語れる全てはキャラを作り上げる設定であり、物語を進めるプロセスであります。

犯罪の教唆や幇助をするものではありませんので、それだけのご理解をお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



コミック版が3月28日に発売、予約受付中!
i000000



『センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?』書籍版、発売中!
i000000
― 新着の感想 ―
こいつってバカだから楽な方に流れ続けないほうが楽じゃないって気づかないよね ほんとに楽な方にいきたいなら楽に生きれる努力をすれば良いのに…気づかない 斉藤事件とかその典型 楽な方に流れ続けたから火の粉…
[良い点] これはすごい。本職ですか? ここまで読んできてふと気がついた。 素人の作品ではないですよね。 どこか途中にかいてあった、方向転換のような話もホントですか? よくもまあ最初の設定に繋げられる…
[良い点] 構成がすごいと思う [一言] 視点変更が成功してると感じたのは初めてでした。 しかも段々と物語の厚みが増してるものだからすごいなあ。 クセが強いのは確かだけど、だからこそ面白い。 続きを…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ