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問題の学校、その最高責任者が首を吊った。
責任の所在が確定した。もう自分が被ることはないだろう。タマはこの結果に満足そうにしながら、今回の騒動の溜飲を下げたのだ。
これ以上動くことなく、求めることなく、俺の祭りはこれで終わりだとばかりに、主催者の座から退いた。
かといって、それで祭りが終わるということはない。
なにせこれは、打ち上げ花火を楽しむ祭りではない。炎上騒動である。
放火魔が自ら起こした火災に満足して、その場から去ったところで、それで鎮火するわけではない。依然として燃え上がったままだし、集まった野次馬たちも留まり続けたままだ。
学校がひとまずの落ち着きを見せるまで、一ヶ月は更にかかった。
火災が収まったところで、焼き払われた跡地でこれまで通りの生活ができるわけがなく、色々と問題はついて回った。
まず三年生については、進路に大きく響いた。底辺校らしく、元々進学を目指すものは一握り。ほとんどの者が就職するのだが、求人数が過去最悪。今回の騒動で関係ない者たちは、就職難に陥ったのだ。
特に私たちのクラスは担任が変わったこともありてんてこ舞い。問題ばかりが起きて、見越していたまともな就職ができたものはいなかった。
後日談で知った話によると、この就職難は未だに尾を引いているらしい。負の遺産は次の世代にも継承され、多くの者たちの足を引っ張った。
それだけではなく、次の年は一学年四クラスが三クラスに減っていたようだ。こんな高校には入りたくない。どれだけ遠かろうと、まともな底辺たちは市外に進学先を求めたようだ。そのせいで相対的に不良品の割合が増え、これはこれでまた、治安の悪化に繋がったらしい。少子化ということもあり、今では二クラスとなりそれすらも定員割れしているとか。
斎藤を玩具にしていた不良品たちは、誰も地元に残っておらず、行方を知る者は誰もいなかった。わかるのは父さんの会社、おまえのせいで倒産したとか、クビになったとか、いられなくなったとか。子の責任は親の責任だと、無責任な正義の鉄槌は勤め先に伸び、色々とあったらしい。今回の騒動で、無関係な会社を含めていくつか潰れたようだ。
後は高橋と斎藤の両親。その末路を含めて、帰郷した際、離れてからの後日談を聞かせて貰ったのだ。
無責任祭りは、何千人もの足を引っ張り、何百人もの人生を狂わせ、人を死に追い込んだ。
私が今日まで生み出した被害者なんて、この数字の前ではちっぽけなもの。
そして祭りの主催者は、卒業後すぐあてもなく上京し、適当に就職し、巨乳JK美少女を自宅警備員雇用して楽しくやっているのだ。因果応報とは一体なんなのかと、物議を醸し出す案件である。
タマは自他ともに認めるろくでなしだ。かといって、私のような人を食い物にする人でなしではない。日々の生活の中で、レールとルールを外れるような真似はしない。正しいに準じているのではなく、ただ罰を厭うて我慢しながら、タマなりに楽なほうへ流れているだけである。
それが今回責任問題に直面し、対応を強いられた。そんな責任を押し付けられるのはごめんだと、楽なほうへ流れるだけでは済まない事態に追い込まれた。覚悟を決め、開き直って、問題解決へ向けて動いたのだ。
それによって敵だけではなく、どれだけの他人が犠牲になろうとも。自分さえ助かればそれでいい。保身に走ることに関しては、他の追随を許さないを体現した。どうでもいい相手を踏み潰しても心が傷まない、私と同じ才能を発揮したのだ。
友情とはその者と過ごした、楽しい日々の中で生まれる。というのであれば、この無責任祭りを通して、私の中に芽生えたのかもしれない。
あのときは最高だった、楽しかったという思い出は、まさに輝かしい青春の一幕。
青春時代にそれをもたらしてくれたのは、タマ一人だけ。だからこそ友人と呼べるのはタマくらいなものなのだろう。
それゆえに惜しい。責任を厭い、罰を恐れすぎる小心者っぷりさえ克服すれば、こちらの世界でいくらでも大成したであろうに。覚悟を決め開き直ったタマは、それほど相手に容赦がなく、自分がやりたいことを貫き通せる力を持っているのだ。
後、楽に流される自堕落なところか、問題を先送りにするとか、与えられた環境での向上心とか、もっと未来を見据えるとか、その色々さえ克服すればと思ったところで、前言を取り消そう。小心者っぷりを克服したところで、タマはこっちの世界で大成しない。
やることをしっかりやっている大人は、レールの上でもそれなりの成功を収められる。他人のためどころか、自分のために頑張らないから、タマは社会模範的なろくでもない大人なのである。
そんなタマが、禁断の果実を背負い込んだ。堕ちるときは一緒と誓い、ついには口にすると決めたのである。
その前の儀式として、光の下へと連れ出す。
果実を口にするのに必要ないはずなのに、ただ楽しませてあげたいという、純粋なる想いから新たなリスクを背負った。
そのリターンが果たして、ハードルを倒してしまった結果に見合うものであったのか。
十二月二十五日の今日、私はそれを見届けることになる。
「いきなり呼びつけて、なんの用だガミ?」
店に入ってきたタマの第一声。そこに不快感もこもっていなければ、迷惑そうな色もない。不思議そうにもせず、今日の天気を問うくらいの口ぶりだ。
電話のマナーも守らず、要件もつけずにタマを呼び出した。余計なことを問うこともなく、黙ってそれに応じ、すぐにやってきたのだ。
だからなにが待っているのか、薄々察していたのかもしれない。
今日の昼頃に、現代の電話のマナーを大事にする娘が、マナー違反をしてきたのだ。
「突然ごめんなさい、マスター」
いつもの陽気で明るいものではない。彼女に似つかわしくないほどに物々しく、暗澹たる声音だ。
二度とその姿を見ることはないかもしれない。そう思っていた相手から、このように連絡をしてくるのだ。ただの相談とかではない、なにかあったのだろうとは感づいた。
「どうしたの?」
「今日、お店を開ける前にお会いできませんか?」
乞うようなでありながら、押し通すかのように語気は強かった。
私は二つ返事でそれを受け入れた。
今日は元々お店を開けるつもりはなかったので、会うのは開店時間以降でも構わない。そう告げると、夕方の六時を指定されたので了承した。
お会いできませんか。なんのために会いたいのかも教えられず、こちらもまた追求せず電話は終わった。
一つの可能性が頭をよぎっていたからだ。
そうして迎えた約束の時間。その五分前に彼女たちはやってきた。
口を開かずとも、その顔を見ただけで全てを察した。
クルミちゃんの顔ではない。その後ろから覗かせた顔だ。
かつてクルミちゃんが持ってきた尋ね人の写真。その面影を感じさせる、美しい黒髪の乙女だ。
写真の当人が成長した姿が、こうして目の前にあるのではない。血を分けているからこそ、顔が似通っているのだ。
不穏な空気を漂わせ、固く唇を結んだ彼女を見ながら、
「タマを呼んでほしいのね」
第一声で用向きの本題へ入ったのだ。
「マスター……」
息を飲んだクルミちゃんは、それ以上の音を出すことはない。
全部知っていたのかと。信用を裏切られたように、その顔は悲しげに沈んでいた。
タマを呼び出し、すぐに来ると告げた後も、二人はなにも聞いてこようとしなかった。私が座るよう促さなければ、きっとそのまま立ちぼうけていただろう。
タマの指定席。その反対側。
そんな先客二人をタマは目にし、
「昨日ぶりだな、クソ姉」
顔色一つ変えず、堂々とした佇まいで文野椛を呼んだのだ。
「なっ……!」
不意打ちとも言える先制攻撃に、椛は憤る暇すら与えられず唖然とした。
今日の用向きは、社会的観点から見てタマに正当性なんてものはなにもない。一方的に糾弾され、責められ、罰せられるべき立場にある。
当人もその自覚はあり、それは互いの共通認識だとすら椛は信じていた。
なのに出会い頭にこれである。
その光景があまりにも面白くて、私は軽く噴き出した。
これでも私は友人だ。例え社会的に見てタマが悪くても、肩入れするほうは決まっている。
「援護は欲しいかしら?」
「いらん。そんなものより一杯くれ」
礼儀として差し出したものより、タマは酒を欲した。
私を巻き込まないようにするための思いやりではない。街頭で配られるポケットティッシュと一緒。オイルショックなら嬉々として求めるであろうが、タマにとってそういう時世ではないということだ。
泰然たる態度で横目にすることもなく、椛を通り過ぎたタマは指定席へと座った
椛は目を見開き肩をわなわなと震わせるも、押し黙ったまま。タマの次の出方を伺っているのではない。信じられない振る舞いを前にして絶句しているのだ。
注いだビールを差し出すと、タマは一気に呷って空にした。これから始めることへの景気づけ。舌の回りを滑らかにするための潤滑油だ。もしくは燃料か。
タマは悠然と足を組むと、改めて椛に真っ向から向き合った。
「さて、これでも社会人だ。自己紹介くらいはしてやる」
これは間違いなく、辛く苦しい戦いになるだろう。
社会にとってどちらが正しいかは決まりきっている。根っこをいくら掘ろうとも、タマが社会を味方につける術は眠っていない。
死ぬほど嫌いなものは責任。
保身に走ることに関しては、他の追随を許さない。
そんな男が背負ったリスク。その爆弾の導火線に火がついた。楽なほう楽なほうに流されたままではもういられない。
責任問題に直面し、対応を強いられたのだ。
子供の頃に使った飛び道具は使えない
今度は正面から堂々と、問題と相対さなければいけない。
「俺は田町創」
相手はそんな、覚悟を決めて開き直ったろくでもない大人。
「テメェの大好きな妹の就職先だ」
正しい生き方だけを全うしてきた、弱点丸出しの子供がどこまでやれるのか。
心が折れず泣かなければ、それだけで大健闘といったところか。
以上、非遵法性享楽主義者ノ人生論はこれにて閉幕です。
次は椛視点となりますが、現在書き溜め中です。
大きく変わるかもしれませんが、導入を活動報告で先行公開しております。
簡単な解説、今後につきましては活動報告のほうでさせて頂いております。
後、この作品が思っていたものと違うと感じられている方がいるのは、感想のほうで把握させて頂いております。
なぜそうなったのか、活動報告に当作品の説明をさせて頂いております。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1426905/blogkey/2779253/
当作品は作者の主張、メッセージ性を込めることは一切ありません。
劇中で語れる全てはキャラを作り上げる設定であり、物語を進めるプロセスであります。
犯罪の教唆や幇助をするものではありませんので、それだけのご理解をお願いいたします。




