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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
非遵法性享楽主義者ノ人生論

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12

 次の日。火種に与えた燃料は、十分に燃え上がっていた。


 落ち着きを見せていたはずの報道関係者が、また大挙して学校周辺に押しかけてきていたのだ。


 朝、タマと落ち合い登校していたので、その光景に顔を見合わせ笑ってしまった。


 呼び止められず教室へと入れたのは、意外といえば意外であった。下駄箱周辺で待ち伏せでもされていると思ったが、教師の顔は一人も見えない。それほど対応に追われて大変なのが見て取れた。


 教室内の雰囲気は浮足立っている。問題の当事者たちが現れたことで、軽い波が起き、けれど健全に属されるクラスメイトたちは、声をかけてくることはない。


 不良品グループも同等である。なにせ現在不良品は、この教室には三人しか残されていない。斎藤の遺書に名前が書かれていた奴らは、全員自宅謹慎中。残っているのは不良品の中でも使えない雑品、免れた三人だけである。


 雑品たちの顔には、無駄な自信に満ちたものはなく、不安げにおどおどとしている。こちらの顔色を伺い、声をかけていいものか迷っていた。


 チャイムはすぐに鳴り、自らの席にどっしりと腰を下ろした。


 これから起こることを考えると、タマにしては怖いくらいに肝が据わっていた。


「田町、明神!」


 だからわなわなと肩を震わせた高橋が入場したときも、タマはビクリともしなかった。苦さと怒りで歪んだその顔を、面白そうにすら眺めていた。


「なんであんな身勝手なことをしたんだ!」


 高橋は壇上に上がらず、真っ先にタマへと詰め寄ってきた。


「はぁ、身勝手だって? 身勝手っていうのは、昨日のテメェらの振る舞いだろ」


 タマはそんな高橋から逃げることなく、正面から鼻で笑った。


「俺たちはただ、自分たちの目線から見た、ありのままのテメェらを語っただけだ。それを身勝手だ間違ってるって言うんなら、俺たちと同じように、堂々と正面から、世間へ釈明したらどうだ? 校門までいけば、いくらでもさせてもらえるぞ」


 高橋は辛酸を舐めたような唸り声だけを出した。そんなことできるわけがないと、その顔には書いている。


 高橋の言う私たちがした身勝手。それは今回起きた事件、生徒目線というものを、全国のお茶の間に届けたのだ。


 学校周辺でうろうろしている報道陣。テレビ関係者にさっきあったことをちらりと話すだけで、嬉々として取材は始まった。


 生徒指導室でのタマの主張を存分に訴えたのだ。


 まずは高橋の人間性を語りに語った。明らかに問題ある組み合わせを、見て見ぬ振りをし続けてきたこと。『問題ごとを俺の前で起こすな、俺のところに持ってくるな』というスタンス。今日まで見せてきた理不尽な姿。いかに頼れず人望がない担任であったのかを。


 高橋だけではなく、この高校はそんな教師ばかり。そもそも斎藤のイジメは周知の事実であり、それが教師の耳に入っていないわけがない。死ぬほどに追い詰められた当人が、助けを求めようとしなかった相手。そんな奴らに改めて報告したところで、なにをしたというのか。


 理不尽に立ち向かっても、教師たちは助けてくれない、守ってくれない。イジメを見て見ぬ振りをしないと、自らの身も守れない風潮と土壌が出来上がっている。


 そして斎藤の両親。なぜ実の両親に助けを求めなかったのか。相談をしなかったのか。追い込まれた先で、なぜ家という逃げ道を求めなかったのか。なにか頼れない事情があったのか……と含みをもたせたのだ。


 ともかく自分たちが見殺しにしたという前に、なぜ斎藤は大人に助けを求めなかったのか。順序が逆ではないか。


 世間が大好きな耳触りのいいだけの小綺麗な言葉を駆使しながら、タマは訴えかけたのだ。私はその隣で、生真面目な態度で同調していた。


 記者たちは聞いているときこそ神妙な顔をしていたが、帰るときはホクホク顔であった。


 こうしてその日の内に、制服を着た私たちの首から下は、お茶の間デビューを果たしたのだ。


 珍しく朝にテレビを見てみたら、どの番組も私たちの首から下ばかり。ここまで効果が絶大だとは、朝から腹を抱えて笑ってしまい、両親には怪訝な顔を向けられた。


「もし俺たちにくだらねぇ真似や、理不尽な制裁をくだしてみろ。すぐに右から左、お茶の間に流してやる。世間はもう俺たちの味方だ。誰もテメェらの言い分なんて、認めちゃくれないし信じちゃくれないからな」


 立ち上がった先で、タマは机を叩いた。


 そんなタマの姿に、高橋は怯んでいる。


 これが不良品だったら舐められてたまるかと出るところだろう。だがタマは今まで不良品グループに属しながらも、高橋には従順で問題を起こさない生徒であった。クソ教師とはいえ仮にもベテラン。タマが不良品に紛れ込んだ理由くらいは察していた。


 それが反抗的な態度なんてものではない。反旗を翻したのだ。学校という小さな世界、その権力だけでは頭を抑えつけられない、世間という味方をつけている。


 教師とはいえ、所詮は公務員。生活のために仕事をしているのだ。


 カっとなり、憤りに任せてタマに掴みかかるだけなら簡単だが、その代価はあまりにも重い。タマには今、その代価を払わすだけの力がある。


「いいかクソ教師」


 今の高橋にはもう、タマを教師の立場で言い聞かせ、制御する手段を失ったのだ。


「この俺に、無責任に責任を押し付けてきた罪は重いぞ。その責任、何十倍にもして返してやるから覚悟しろ」




     ◆




 放課後、私たちは呼び出されたがそれに応じなかった。


 これからのことで話し合うことなんてなにもない。次登校したとき、なにを言われようがどうでもいい。私だけではなく、あのタマすらそこまで開き直っているのは、それだけで驚くべきことなのだ。


 タマとは一度別れたが、私が家を訪ねる形で夜に落ち合った。


 どこにでもある一軒家。親は不在らしく、タマ一人きりであった。いつものことらしいから、なにも気を使わずタマの部屋へと上がっていった。


 散らかっていない小綺麗な部屋である。パソコンデスクにベッド、そして小学生の頃に買い与えられたであろう学習机。その上にはテレビが上がっており、学習する気がないのはよく見て取れた。


「見ろよガミ」


 座ってくれの一言もなく、タマは自分だけ椅子に座り、顎でテレビを指す。


「昨日ちょろっと話しただけの一件が、もうここまで大沙汰になって、あれこれと騒いでる」


 テレビに映ってるのは、報道番組の討論枠か。著名人や界隈の専門家を呼んで、あれこれと今回の事件について論じているようだ。


「無責任だと思わないか、こいつら?」


「無責任?」


「だってそうだろ。結局こいつらは、与えられた偏った情報だけで、あれは悪いこれが問題だって論じてるんだぞ? これこそが正しい。自分たちの導き出した答えに間違いないって、無責任に主張してるんだ。こいつは悪だと糾弾すらしておいて、いざ前提が間違ってるって知っても、絶対に責任を取ろうとしないぞ」


「前提が間違ってるって、おまえがもたらした訴えじゃねぇか」


「そう、俺の一方的な訴えで、世間は俺のことを悪くない。見て見ぬ振りしかできなかった。罪はないって擁護してくれるんだ。


 バーカ、見て見ぬ振りしかできなかったんじゃねぇ。くだらんことに巻き込まれたくなかっただけだよ。クソザコナメクジのことなんざ、端から知ったこっちゃねぇ。あーあーあー」


 タマは目をつむり、両耳を塞ぎなら、おどけながら鼻を鳴らした。


 他人の不幸など知ったことか。俺を巻き込むんじゃないぞというポーズである。


「こんな俺の本音を知ったら、世間はまた手のひらをクルって返すぞ。イジメを見て見ぬ振りをした罪人だってな。それこそ生かしちゃおけないとばかりに、こぞって叩いてくる」


「そんな明け透けなことを言えば、そうなるに決まってる。建前ってのは大事だろ」


「そうだ。こいつらが大事にしてるのは、本音じゃなくて建前。耳触りのいい綺麗事と、大義名分と正義を持って、倫理と道徳の剣を振り下ろしたいだけなんだよ」


 タマはテレビから視線を外し、こちらを向いた。


「結局、欲しいのは真実じゃなくて、良心の呵責もなく一方的に殴れるサンドバック。自分たちのしていることの自覚もないから、責任がないと信じている。そんなタチの悪い自称正義の使者たちに、サンドバックを明確な形にして、在り処を教えるとどうなると思う?」


 タマは椅子にふんぞり返りながら、尊大な動作で足を組んだ。


「ガミ、例のものを」


「ははあ」


「うむ」


 声色を落としながら、芝居がかったその物言いに、私は恭しい態度を示した。


 差し出したのはスマホ。昨日入荷を頼んでおいた、通信会社と契約済みの品である。


「俺に無責任な責任を押し付けたクソ共だけじゃねぇ。こんなくだらん事件を引き起こし、巻き込み、手を煩わせる原因になった不良品まとめて、神輿に乗せてバーベーキューにしてやる」


 タマはそれはもう楽しそうな高笑いを上げながら、


「さあ、タチの悪い正義の鉄槌、無責任祭りの始まりだ!」


 祭りの開催を宣言をしたのだ。

当作品は作者の主張、メッセージ性を込めることは一切ありません。

劇中で語れる全てはキャラを作り上げる設定であり、物語を進めるプロセスであります。

犯罪の教唆や幇助をするものではありませんので、それだけのご理解をお願いいたします。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



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― 新着の感想 ―
いじめ+自殺という問題の責任の所在を力が弱い人に押し付けようとしたんだ 何十倍に責任を返されても文句は言えないね まだ今のところは自業自得としか言えない ただ関係ない人を巻き込むのはちょっと… …
[気になる点] タマの台詞「~絶対に責任を取らうとしないぞ」              ⬆️           誤字ありました [一言] 面白いと思うから読ませて頂いてるだけですので、作品内容で過激…
[良い点] 文章力があるので読んでいて良くも悪くも引き込まれる。 [一言] 序盤からクズやらロクデナシと文中で言われてた詳細が判明したけどタマの人間性がゴミすぎて草。よくこれで社会人として生活できてる…
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