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タマとは長い付き合いだが、こんな切れ方を見せたのは初めてだ。
大人を敵に回すのが、子供にとってどれだけ厄介なことであるか。理不尽な目にあおうとも怒りを飲み込んで、タマはいつだって殊勝な態度を取り続けてきた。
それをよりにもよって、このような場で反逆の意思を見せたのだ。大人たち以上に、豹変したタマに呆気にとられてしまった。
「そもそも、順序が逆なんだよ順序が。なんで斎藤は、テメェらを頼らなかった。助かりたいならまず大人に助けを求めるのが筋だろ! おいクソ親共、なんで斎藤はテメェらに相談しなかった? 自分たちに心配させたくなかったとでもほざく気か? いいか、それは違うぞ。クソ親に相談しても無駄だ、頼りにならん、どうにもならないって知っていたからだ。問題を親に託して、解決するまで学校を休んでればいいものを、それができないってわかってたんだ。追い込まれた先で死んだのは、家には逃げ道がない、この道しかもう残されてないと信じてたからだ! それが今日までテメェらが築いてきた、親子の絆ってやつだ!」
タマは両手で机を叩くと、斎藤の両親に向かって身を乗り出した。
「俺があいつを見殺しにしたって言うんなら、テメェらは逃げ道を塞いで殺したんだ。おい聞かせろよクソ親共。子供を殺した親の気持ちってやつをよ!」
嘲り笑うように、タマは吐き捨てた。
斎藤の両親は、喘ぐように喉を鳴らしながら、声を失っている。
子供がイジメを苦に自殺し、先立たれた。その悲哀と加害者への憤りに胸が満たされている中、見殺しにした相手に子殺しなんて罵られたのだ。同時になぜ一度も相談なく、子供が首を吊ったのか。その事実を一つの答えとして、言語化して与えられたのだ。
見て見ぬ振りをできぬほどの、自分たちの責任を突きつけられた。
「田町!」
「うるせぇクソ教師!」
狼狽えながらも高橋は声を張り上げるも、タマは更なる声量で一喝した。
「テメェもテメェで、今回のイジメをなに寝耳に水みたいなバカ面してる。何十年教師やってんだ。あんなクソザコナメクジが不良品共と常日頃から一緒にいるんだぞ。そこになんの問題も起きてないと本気で思ってたのか? テメェの頭はハッピーセットか!」
タマは再び机を叩いて、今度は高橋に向かって罵声を吐いた。
「一度でも斎藤に声をかけてやったか? 大丈夫か、問題はないか、イジメられてないかって。そうやって聞き取りを一度でもしたか? ないだろ。なにせイジメ問題の対応なんて、面倒くさいだけだもんな。テメェが表面化していない問題をわざわざ自分で掘り起こすわけがねぇ。『問題ごとを俺の前で起こすな、俺のところに持ってくるな』。それがテメェのスタンスだ。俺たち生徒は、テメェの人間性をよく知ってる。アテにならん、頼れんクソ教師だってな! だから斎藤も相談しなかった。助けを求められなかった。問題を見て見ぬ振りをしてきただけじゃない。学校での逃げ道を、真っ先にテメェが塞いでたんだ。生徒を殺したテメェの気持ちをここで代弁してやる。面倒な問題を起こしやがって、だろ。違うか!?」
まくしたてるかのように人間性の否定。いつもなら偉そうに声を張り上げるところを、高橋はなにも言えず押し黙った。
なにせ真実だからだ。斎藤と不良品。この組み合わせで問題が起きていないわけはなく、ベテラン教師がそれをわからないわけがない。わからないでいていいわけがない。
タマが見殺しにしたというのなら、その問題を見て見ぬ振りをし、聞き取りを一度もしなかった高橋も同罪。逃げ道を塞いだことを鑑みれば、その罪は二倍といったところか。
キッ、とタマは校長を睨めつけた。
「なにがイジメを見て見ぬ振りをした奴も同罪だ。イジメられている当人が見限っている大人に、部外者がなにを相談しろって言うんだ! 大人が守ってくれないのをわかっていて、なんで自己犠牲精神で助けなきゃならん! 子供の安全を保証できてねぇ分際で、耳触りがいいだけの綺麗事を押し付けてんじゃねぇ!」
校長もまた、タマの言い分に怯んだ。
イジメを見て見ぬ振りをした者も同罪。倫理と道徳だけに溢れた、なんという耳触りのいいだけの中身がない言葉か。
子供だって自分の立ち位置を守り、必死に生きている。それを捨て去ってまで、なぜ危険に立ち向かわなければならないのか。大人たちができないことを、なぜ子供に求めようとするのか。
それを子供にさせたいというのなら、なにがあっても守ってくれる大人がいる。不条理に安心して立ち向かえる、大人への信頼が必要である。自らの身の安全、その保証が必要なのだ。
その土壌もなく、イジメに立ち向かえなんていうのは無責任なことこの上ない。イジメを見て見ぬ振りをした者も同罪だと言うのならば、子供がそれを真っ当できる土壌作りを怠った、大人こそが一番の罪人だ。
「大人の不出来と不手際を棚に上げて、子供に責任を押し付けてくんじゃねぇぞクソ共が!」
だから私は思ったのだ。
悪人たる私から見ても、タマの言い分には正当性があるものだと。
タマがなによりも嫌いなものは責任である。
それをこんな形で、まるでおまえだけが罪人だと罵られ、無責任に責任を押し付けられようものなら、ここまで憤るのも仕方ない。
「ギャハハ!」
タマをここまでブチギレさせた、そんな無責任な大人たちが滑稽すぎて、私は腹を抱えるほどに追い込まれた。
あまりにも場違いな笑声。しかし大人たちはそれを咎めることはない。
また口を開こうものなら、タマになにを言われるかわからない。目を閉じて、耳を塞ぎ、知らないことにしてきた問題を、また形にされて突きつけられるのがたまらない。そんな顔をしている。
「ガミ、帰るぞ」
大人たちの体裁が悪く、整わない中の退出宣言。それを止めようとする者はおらず、タマに目を向けることすらない。
そんな様を私はおかしそうに見ながら、その背中に着いていった。
「じゃあな、子供殺しのクソ共が。今頃石積みに励んでる、クソザコナメクジに贖いやがれ」
最後の最後まで大人を責め立てる、そのセリフに腹を抱えてギャハハと笑ったのだった。
当作品は作者の主張、メッセージ性を込めることは一切ありません。
劇中で語れる全てはキャラを作り上げる設定であり、物語を進めるプロセスであります。
犯罪の教唆や幇助をするものではありませんので、それだけのご理解をお願いいたします。
だけでは済まなそうな問題が、現在SNSで時事ネタとして騒がれている。
その時事ネタと結びつける人たちが出るかも知れないと、作品を心配するメッセージを頂きました。
調べてみたところ、その懸念がよくわかるほどにタイムリーな内容でした。
なのでその時事ネタを連想してしまった方々に向けて、この話でやりたいこと、その解説を活動報告にさせて頂きました。
なぜこのような話にしたのか、疑問を感じる方は、こちらのほうをご一読頂ければ存じます。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1426905/blogkey/2777240/




