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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
非遵法性享楽主義者ノ人生論

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08

 クリスマスに外へ連れ出す思惑に納得がいった。


 記念日に相応しい、楽しい日を送ろということだろう。


 一体タマになにがあり、果実の収穫を決めたのか。中学生未満の進展のない話を聞かされ続けていただけに、突飛にイベントに心すら踊ったほどだ。


 やっと面白い展開になった、と。


 当然私はその話を求め、聞き出した。


 タマもまた、勿体つけた先で意気揚々と語り、


「とまあ、ついに戦場へ赴く日が決まったわけだ」


 得意げな声で話を締めたのだ。


 私はそれを聞き届けた先で、


「子供相手にそこまで言わせるなんて……みっともないわね」


 よくこんな話を得意気に語れるものだと呆れ果てていた。


 そこまで言わないと手を出す決断をしてもらえなかった、禁断の果実には同情する。


「ふん、なんとでも言え」


「いい大人が恥ずかしくないの?」


「ファッキュー」


 語彙を放棄したタマだったが、その顔は開き直っているそれである。


 人間情けないものを見るとどうやら頭痛すら覚えてるようだ。あの娘の代わりにこちらの頭が痛い。


「こんばんは、マスター」


 店内に響いた、女の声。


 それを耳にして、特効薬を飲んだように頭痛はスッと引いた。気を取り直したからではなく、思いもせぬ状況に驚いたからだ。


「クルミちゃん? ……って、もうこんな時間なのね」


 腕時計に目を落とすと、開店時間から三十分も経っていた。時間が進むものだというのを忘れて、すっかり話し込んでいたようである。


 クルミちゃんには話を詳しく聞かれていなかったようなので、ホッとはした。下品な話だからではなく、彼女が探している妹が絡む話だからだ。


 店にそのまま招き入れ、いつもの流れになった。


 彼女の探し人など知らぬ存ぜぬを貫き通し、タマは可愛い女の子とおしゃべりできて楽しそうである。


 そうやって危なげもなく、疑いももたせることもなく、今日も乗り切るだろうと考えていたが、


「ついに性の六時間デビューだからな。当日どころか、二日続けて取れたのはほんとでかかった」


 タマにしては珍しい失言をしたのだ。


 きたる日に浮かれているのがよくわかった。


「そういえば俺たちの関係って、なんなんだ……?」


 クルミちゃんに話を促された先で、そんなことを自問自答を始める始末。


 今日のタマはいつもの倍のペースで飲んでいる。このくらいで泥酔はしないが、口が軽くなってしまっているのは確か。普段しない滑り方をしていた。


「タマ、今日は飲みすぎよ」


 まずい流れだと、私は助け舟を出した。


「変に口を滑らせ後悔する前に、今日のところは帰ったほうがいいんじゃない」


 クルミちゃんの手前もあるので、軽く帰るよう促した。


 タマはそれに反抗的な態度を見せることなく、ハッとして頭をかいた。


「ガミにこう言われちゃ敵わん。今日のところはお暇するよ」


 コートを羽織ったタマは、そうやってすぐに店を後にした。出ていく際、気を利かせてくれてありがとな、とその目からは伝わってきた。


 クルミちゃんはポカンとしながら、そんなタマの後を目で追っている。


 そろそろ潮時だろう。


 あの果実がタマにとっての爆弾なら、クルミちゃんは導火線の近くにある火種である。


 タマも遠のけようとしなかったから、私はクルミちゃんを放置してきた。これはこれで見ていて楽しいものだと、好きなようにさせてきた。


 タマは泣きを見ているより、鼻で笑っているほうが似合ってる。こんな悪人にも、そのくらいの友情は持ち合わせているのだ。


 だから、


「クルミちゃん。金曜日の早い時間に来るのはもう止めなさい」


 その火種をタマから遠ざけることに決めたのだ。


 恋は盲目。


「タマはあれで、何千人もの足を引っ張り、何百人もの人生を狂わせ」


 どれほどまでに酷いものであるかを思い知らせながら、ハッキリとその恋はろくでもないものだと告げたのだ。


「人を死に追い込んでおいて、ざまぁ見やがれって笑っているような男なのよ」


 その恋は五度目の正直どころか、過去最大級の黒歴史になるところだった、と。


 信じられないものを目の当たりにしたように、クルミちゃんは声を失った。


 一体タマの過去になにがあったのかを聞きたそうにしながらも、それを知るのを恐れるように。


「今日はもう帰りなさい」


 私はそれに、あなたが知らないでもいいことだと告げたのだ。


 とぼとぼとした足取りで、彼女は店を後にした。


 もしかするとその背中を見るのは最後かもしれない。


 男運こそ最悪であったが、今どきの子にしてはいい子であり、お気に入りであった。それこそたちの悪いストーカーや、地位を振りかざした嫌がらせを受けているなんて相談を受ければ、後ろ暗い力で解決してあげてもいいほどに。


 少し寂しいが、ここは友情を取らせてもらった。


 タマは数少ないというよりは、おそらく私にとって唯一と言える友人だ。地元に残した縁との再会は面白くはあったが、ちょくちょく会いたいという気持ちが湧くほどではない。地元を発ってからのその日までの、後日談を楽しみにいったに近い。二度も三度も聞きたくなるほどの話はなかった。


 だからタマとあれこれと話をしていて、面白く感じているのは、あいつとの関わりを楽しんでいる自分がいるから。


 そう思う相手を、皆は友人というのだろう。


 かといって、深い関わりを持って生きてきたわけではなかったはずだが。


 ただの腐れ縁であり、学校以外でそう関わりをもってこなかった。


 そんなタマとの関わりが愉快で笑えて、面白いものだとこの胸に刻まれたのはやはりあの事件か。


「あのタマが、わざわざリスクを背負ってまで動くなんてね」


 責任逃れのためにあそこまでやった男が、こんな風に動くとは。


 話を聞く限り、あの果実を口にするのに必要ないデートだ。


 それでも連れ出してやりたいと思ったのは、彼女を楽しませてあげたいという純粋な想いからだろう。


 タマはあの娘との生活を、間違いなく楽しんでいる。


 ただ自分にとって都合がよく、便利だからではない。


 文野楓という人間……いや、一閃十界のレナファルトのあり方を認め、尊重し、向き合っている。


 そんな女の子と楽しいだけの生活を送っているのだ。今まで手に入らなかった感情くらい、芽生える余地はあるだろう。


 本人はどこまでその感情を自覚しているかはわからない。


 そこを問わんとすると、タマのことだ。あれこれと色んな言葉と定義をこねくり回し、煙に巻かんとするだろう。


 いい大人が子供相手に抱いた想いを、そんな言葉に当てはめるのは恥ずかしいのだ。


 自分ではなく、人の幸せを願ってリスクを背負って動く。


 社会はそれを成長と呼ぶかもしれない。


 しかしタマの生き方にとっては退化だろう。


 だからこれは、ただの変化である。


「良くも悪くも、女は男を変えるってことかしら」


 タマの死ぬほど嫌いな言葉は責任だ。


 保身に走ることに関しては、他の追随を許さないろくでもない大人を、あんな風に動かすなんて女の力は偉大である。


 なにせあの男は、自分の身を守るためなら、無関係な者の犠牲を厭わない。


 火種にガソリンを注ぎ、大火を生み出した。その炎は学校を包み込むだけでは留まらない。クソ教師の教えだと叫んで、連帯責任という延焼ラインを引き、次々と当事者以外も飲み込んでいった。


 そうして当事者が一人首を吊って、


「ざまぁ見やがれ!」


 タマは勝利宣言をしたのだ。


 あれは間違いなく、法律にも、倫理にも、道徳にも外れている行為。そこに正義なんてものは一つもない、保身と憤りだけで起こされた騒動。


 だからこの話で論ずることがあるとすれば、タマの取った行動が正しかったかではない。タマの憤りは正当なものであるか。


 社会模範的な価値観。耳触りのいいだけの綺麗事を、全うしなかったと責め立てる大人たちの主張に、どれほどの正当性があったか。


 結局最後に決めるのは感情論。


 少なくとも正しい生き方に準ずるのなら、これは胸糞悪い話であり。


 耳触りのいいだけの綺麗事が嫌いな者たちにとっては、爽快な話だろう。


 ざまぁ見やがれ! と。


 ちなみに私は手を貸しており、終わったらいい見世物だと笑ったのだったが。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



コミック版が3月28日に発売、予約受付中!
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― 新着の感想 ―
やー、よく考えると改めてタマやってることフツーにやばい… 保身も憤りも別に良いけど限度はあるでしょ 死ぬように仕向けて死んだらざまぁとか報いを受けた方がいいよ 社会模範的な価値観。耳触りのいいだ…
[良い点] いつも楽しく読んでます。 [気になる点] 自分も性格良い方では無いのですが、タマの悪行にはモヤッとしますね。 やっぱり動機が保身と憤りだからかな。何かしらの能動的な目的(復讐なり、私腹を肥…
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