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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
非遵法性享楽主義者ノ人生論

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05

「マスター、相談があるんですけど」


 タマの自宅警備員雇用から、一周年記念を間近に控えたある日。


 金曜日でもないというのに、クルミちゃんが店を訪ねてきた。


 クルミちゃんとはこの店の常連。利発で陽気な栗毛の女子大生である。


 彼女の容姿はいかにも男好きするものであり、いかにも女が嫌いな女といったところ。出会ってきたモラトリアム少年少女たちの中で、間違いなく一番可愛い娘である。


 ここまで可愛ければ、いくらでもいい男に困らない。だというのに、彼女の恋の遍歴は全てが黒歴史。ろくでもない男たちに、いつも食い物にされてきているのだ。


 クルミちゃんはガードが緩いとか、頭が悪いとかではない。むしろその逆。可愛さの自認がある上で、男の欲望を正しく見抜いている。その上で自らを安売りしたりはしない。


 なのにクルミちゃんは、いつもろくでもない男たちに恋をする。誰もが羨むような可愛さを与えられた代わりに、男運を取り上げられているのかもしれない。


 五度目の恋がそれを証明している。


 なにせ相手はタマ。恋の遍歴のろくでもない男たち。そんな彼らに追随を許さない、ブッチギリでろくでもない男だ。


 事故のような出会いを持って、タマなんかに一目惚れをしてしまった。これを男運がないと呼ばずに、なんと呼べばいい。


 タマに加減なく喋らせれば、そのろくでもない人間性はすぐに伝わるだろう。そう思って見続けてきたが、彼女の目は常にうっとりとしている。むしろめり込んでいる始末だ。


 これが恋は盲目、その弊害。賢い娘であるにも関わらず、男に食い物にされてきた納得の光景であった。


 私はモラトリアム少年少女たちを導きたいわけではない。話を聞いた先で、こんな考えや価値観がこの世にはあると教えるだけ。彼らの人生の指針、コンパスにはなるつもりはない。


 模範的な大人ならば、タマのろくでもなさを説いて、その恋を諦めさせるところだろう。ただ私は、模範的な大人の観点から語れる術があるだけの、ひとでなしである。クルミちゃんはお気に入りであれど、余計な口出しをするつもりはなかった。


 なにより、タマ風情にこれほど可愛い娘が恋をしている。それだけで面白い案件であり、見ていて楽しいのだ。


 そんなクルミちゃんから、相談があると告げられた。


 タマとのことかと思ったが、それは違うと思い直した。その浮かない顔に、全くの別件だと示していたのだ。


 席についたクルミちゃんは一杯目を受け取ると、


「実は……」


 一口喉を潤した先で語り始めたのだった。


 どうやらクルミちゃんの友達の妹が家出をしたらしい。それも最近、タマに相談した引きこもりの妹がとのこと。


 引きこもりの妹を持つ姉。二人の関係性をちょっと耳にするだけで、タマは姉妹の問題の根っこを示していた。その先で脱引きこもりの前に、なにが一番必要なのかを語ったのだ。


 クルミちゃんにとって、まさに天啓を得たような解決策。また一つ、ろくでもない大人に傾倒してしまった。


 横で聞いていた私も、口をはさむ余地がないほどの論説であった。過激なことを口にしながらも、タマが言っていることは珍しいほどに、解決策として王道であったのだ。


 ちょっと問題を耳にしただけでこれである。まるで人生経験豊富な大人のようだ。


 私のような人間は全員殺せ。そしたら九十五割の犯罪はなくなる。とまで叫んでいた少年時代から、信じられない成長である。


 ただし人生経験といえば聞こえはいいが、似たような境遇の引きこもりを抱え込んでいただけ。どこかで聞いたような話だから、ちょっと耳にしただけで事例が上手くはまったのだ。


 クルミちゃんの話を聞き届けた先で私は確信した。


「なるほどね……」


 あの自宅警備員と引きこもり妹は同一人物だと。


 どこかで聞いたような話でもなんでもない。本人から直接聞いた話なのだ。根っこの問題をタマは知ったように語ったのではなく、聞いたことを右から左へと流したにすぎない。


 クルミちゃんの相談というのは、簡単な協力要請であり、二つ返事で了承した。


 こんな面白いこと見過ごせるわけがない。


 すぐに店を閉めて、クルミちゃんの貸し切りにした。


 クルミちゃんの相談は、友達の妹がこんな事情で家出をしている。写真を託すから、目撃情報を得るのに協力してくれ。だけのつもりだった。


 私を頼ったとはいえ、他家の事情。全てを全て、赤裸々に語るのは憚れたのだ。


 なのでこんなことまで語るつもりはなかった、くらいの話をクルミちゃんから引き出した。主に個人情報を周りを中心にして。


 この話をしたとき、タマがどんな顔をするのか。次に会うときが楽しみだ。


 一通り話を聞き出すと、


「マスター……」


 クルミちゃんはカウンター上で組んでいた腕に顎を乗せた。気持ち俯かせたその顔は憂いげだ。


 あれもこれもと友達の情報を吐いてしまった。


「わたし、椛に偉そうに語っちゃいましたけど……ちょっと無責任だったかもしれません」


 それに罪悪感を覚えたのかと思ったらそうではなかった。


「無責任?」


「言われたことを右から左へと流して、これが答えだと押し付けるだけ押し付けて、後はちゃんとやれよなんて……今更になって、ちょっと」


「でもお友達はそれに納得したんじゃないの?」


「納得はしてくれましたけど……楓ちゃんが戻ってきたとき、それだけで簡単にいくのかなって」


 クルミちゃんは腕に乗せていた顎を、額へとスライドさせた。まるで見たくもないものから目を逸らすようにして。


「家族でも親戚でもない人をアテにした家出。……綺麗なままじゃ、いられないですよね」


 なにを、とまでクルミちゃんは口にしない。


 子供の家出を手助けするのは、リスクを背負わなければならない。それこそ表沙汰になれば全てを失うほどの。それでも手助けするのは、リスクを背負うだけの得があるからだ。


 家出したときは十五歳。可愛い可愛い女の子だ。


 綺麗なままではいられないというのは、男の欲望に飲まれた後だと言いたいのだ。


『そんなことないわ』


『きっと大丈夫よ』


 そんな虚しいだけの慰めを私はしない。ここは黙って、


『そうね……』


 とだけ口にするところだ。


 だがそれを口にしない。


 なぜか。


 家出娘が綺麗なままであるのを、よく知っているからだ。転がり込んだ先の男が童貞をこじらせており、子供相手にビビって手を出していない。むしろ家出娘当人が、手を出してもらえないことにヤキモキしているだろう。


「タマさんの教えてくれたのは、ありのまま楓ちゃんを受け入れて、認めた上でどう手を引いていくか。ただの引きこもりであった楓ちゃんのことなら、椛も全部飲み込めたはずでしたけど……」


「でも、家出先でやってきたことまでは難しいのね」


「汚いとか穢らわしいとか、そんな目で椛は見たりはしないでしょうけど……。大好きな妹がそういうことをしてきた現実が、それでなくなるわけじゃありませんから。いざ楓ちゃんを前にしたとき、正面からそれを認めて受け入れるのは、難しいんじゃないかなって」


 クルミちゃんはうつ伏せたまま、顔を横に向けた。


「社会のレールやルールから外れた価値観。それを飲み込めないまま導こうとすると、また同じことの繰り返しになるなら……わたしが押し付けたのって、ただの無責任だったんじゃないかって」


 小さな息が漏れ出した。


 無責任だというのなら、元を辿ればその話をもたらした奴が一番無責任だろう。なにせその家出娘を抱えている張本人だ。


 守ってやりたい義憤を持って、家出娘を匿ったのならカッコはつくがそうではない。その場の空気に流されて、受け入れて、なんとかなるだろと抱え込んだだけ。その先で返すタイミングを見失い、ダラダラと一緒に過ごしているにすぎない。


 優しくしているのではなく、甘やかしているだけ。あの娘の将来のことは一切考えていないのだ。


 まさに無責任な大人、ここに極まる。


 それを自覚しているのだから、あれは本当にろくでもない大人である。


 クルミちゃんの悩みは、そんな大人が問題を引き起こし、そのまま当人からもたらされたものと変わらない。

家族親戚田中と同じく、95割はネットスラングです。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



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― 新着の感想 ―
>>家出娘が綺麗なままであるのを、よく知っているからだ。転がり込んだ先の男が童貞をこじらせており、子供相手にビビって手を出していない。むしろ家出娘当人が、手を出してもらえないことにヤキモキしているだろ…
[一言] 無責任なのが子供。責任を取らないのが大人。 はっきり分かんだね。
[気になる点] 誤字(?)報告です。 >>私のような人間は全員殺せ。そしたら九十五割の犯罪はなくなる。とまで叫んでいた少年時代から、信じられない成長である。 9割5分だと思われます。
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